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何回読んでも楽しめること間違いなし!見事な伏線回収で幕を閉じた『彼方のアストラ』の一部始終を刮目せよ!
レビュー執筆者:miyamo

 

SFミステリー漫画『彼方のアストラ』

 

ここ数シーズンのアニメは少年マンガ原作、とくに週刊少年ジャンプ関連の原作つきで気合の入った大作・秀作が目立っており、活況だ。

 

本日紹介する『彼方のアストラ』もそのひとつ。人情味豊かな学園コメディ『スケットダンス』篠原健太先生がガラッとジャンルを変えてきた意欲作で、2016~17年に「少年ジャンプ+」で配信されて口コミから人気を高めたのち、今夏ついにアニメ化を迎えた要注目タイトルである。

 

時は近未来、人類が超光速航法で銀河を飛び回るようになった西暦2063年。

 

出会ったばかりのメンバーで協力しながら数日間を異星で過ごす“惑星キャンプ”に参加した8人の高校生+女児1人が謎の球体に吸い込まれ、宇宙空間へ放り出されてしまう。

 

たまたま見つけた古い宇宙船に避難した9人は自分たちが通信手段を失った状態で5000光年以上も離れた場所へ転送されたことを知り絶望しかけるが、近くにある星から星へ生存に必要な物資の調達をしながらの飛び石ルートで帰還できる可能性を見出し、それに賭けることにする。

 

行く先々で未知なる動植物の生態に出くわして危険に見舞われる冒険の日々。少年少女たちはリーダーを担うカナタ・ホシジマの奮闘でピンチを乗り越えるたび団結力を高め、はるか彼方にある故郷への道を着実に前進していく……。

 

英語タイトル「ASTRA LOST IN SPACE」の「ロスト・イン・スペース」は往年のSFドラマ『宇宙家族ロビンソン』(1965~68)の原題として有名なフレーズで、方向性はそのあたりから察していただきたい。

 

さらに、9人を宇宙へ飛ばした球体の正体、各メンバーが過去や心身に抱える事情、共通点がないと思われた彼らが同じ班に集められた本当の理由、そして仲間の中に潜んでいずれ全員の命を脅かすかもしれない“刺客”の存在など、サバイバルの上にミステリ・サスペンス色も乗せ、前半にまいた種を単行本全5巻できっちり刈りつくす完成度が本作の強み。

 

登場人物のちょっとした表情やささいなセリフ、笑いかたひとつにも情報がぎっしりつまっており、読了後に真相を知ってからまた読み返すのも楽しいだろう。

 

ただ、そういう「回収がうまい」だけならただ構成面の技術的な評価に留まってしまうので、ここではもうちょっとキャラクターに寄せた見方を示しておこう。
本作はSFギミックで展開する様々なシチュエーションの底に、きわめて明確な人間ドラマの下地を敷いている。それは要約すると「子供は親とは別の人間で、別の人生を歩むものだ」という観点だ。

 

例えば、世界的アスリートの父に後継を望まれながらも全く別の目標を選んだカナタ
歌姫である母から無能あつかいで抑圧され、それでも本当にしたいことを胸に秘めるユンファ
立場のある身内から冷遇された反動で自立心をたくわえたウルガールカ

 

さらに、メンバー全員に関わる秘密の核心を通して、この『彼方のアストラ』という作品は、親の思い通りになれない・ならない子供たちの心情が力強い覚悟に昇華するさまを繰り返し描いている。

 

これは、ひいては「少年マンガの要件とは何か?」という大きな話にもつながってくる。

 

いろいろと考え方があるだろうが、その答えのひとつは「大人ではないものを描く」というシンプルな姿勢だ。キャラクターの男女その他の性別は関係ないし、争いに勝つとか、物事をなしとげて成果を手に入れるだとか、成長や、年齢設定でさえも副次的な要素にすぎない。

 

ガキにできることはたかがしれている、だから大人の都合に合わせておけとナメられた時、何らかの形でちょっぴりでも見返すことができれば、そこには少年マンガとして必要じゅうぶんな世界観が立ち上る。大人の理屈に立ち向かい、一矢報いる若い魂を描ければそれでいいのである。

 

宇宙船アストラ号の旅路は、大人が与えなかったもの・奪おうとしたものに直面した子供たちが、自分で自分の人生を創り出すための助走だ。それを駆け抜けた果てに彼らが見せるのは、このマンガを読む我々の中にある“少年”をも奮い立たせる、感動的な跳躍の瞬間である。

 

 

 

 

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