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日本人とは何か?ムラ人間を批判した手塚治虫晩年の未完の名作『グリンゴ』

こんにちは。神保町にある「漫泊=一晩中マンガ体験」MANGA ART HOTEL代表の御子柴です。

 

今回ご紹介する作品は、地球の反対側で戦うバブル期のサラリーマン社長を描いた『グリンゴ』。バブル時代の日本人が現地の人とは違う価値観で生きていることにフォーカスがされています。

 

今作は手塚治虫先生が病に伏しながらも描き続け、未完となっています。
なので、物語の結末重視でストーリーを消化したい人には向かない作品だと先にお伝えしておきますね。

 

南米で繰り広げられる日本のサラリーマンの日常

作品の大筋は、バブル期の日本の総合商社で、専務に可愛がられ、猛スピードで出世をしてきた35歳の〈ヒモトヒトシ〉が主人公です。

〈ヒモト〉は典型的な上司に引っ張り上げられて社内政治を昇って行き、上司の懐刀として仕事に邁進するモーレツ社員であり、仕事こそが人生の価値観の人間です。

 

やがて南米の支社長として異例の昇進で着任しますが、異国でリスクのある取引を進めた結果、厳しい現実を目にします。要するに会社員として失敗したのです。

 

この現実が引き起こされたのが、実は……というのが物語の始まりです。
〈ヒモト〉は家族と一緒に、更に治安が悪化している国へ更迭となり、もっと厳しい日々を送ることになります。

 

そこはゲリラや売春がはびこる日本人には耐えがたい地域でした。

なんて国なんだ……と〈ヒモト〉は激昂します。

 

 

どんな環境でも同じ日本人の仕事観

この漫画で登場する日本人は、まさにプロトタイプの日本人像そのもの。

そして、フランス人の奥さんは日本人の彼の対極的な存在として描かれます。

第1巻と第2巻で大きくそのバランスが変わりますが、要チェックなのは〈ヒモト〉が怒るポイントです。

人が怒りを感じるポイントというのは個人個人違うものです。

たとえば他人事に対して怒りよりも、自身の過去や環境、価値観などに関係することに対しての怒りは激しいものだと思えます。

 

〈ヒモト〉が怒り狂うポイントは、まさにバブル期の日本人の男性を体現した価値観から生まれる怒りとなっているところに注目です。

 

例えば作中では、レストランで呼んでも無視をする店員、街中で東洋人であることを見下した通りすがりの男に怒り心頭になっているエピソードがあります。

 

哲学者・三木清は、「人は軽蔑されたと感じたときに最もよく怒る。だから自信のあるものはあまり怒らない」ということを言いました。この当時の日本人が軽蔑されたと感じるポイントで〈ヒモト〉は怒り狂います。

 

そして、その連鎖を外部から見ているフランス人の奥さんは自分自身の価値観で〈ヒモト〉に対して接するのです。

 

いつでも仕事を忘れない〈ヒモト〉と家庭人である奥さんはピンチに陥ったときに、正反対の立場を取りました。

 

 

『グリンゴ』というタイトルは、スペイン語で「よそもの」 を意味する蔑称ですが、〈ヒモト〉が象徴する日本人のイメージというのは、この時代に蔑視され、忌み嫌われる存在だったのでしょうか。

そして、それはなぜだったのでしょうか。

 

タイトルの意味も手塚先生亡き今はわかりませんが、いろいろと思案してみるのも面白いかもしれません。

 

 

すでに紙版が絶版のため残念ながら、MANGA ART HOTEL には置けませんでしたが、ぜひとも電子出版でお楽しみください!

 

 

グリンゴ 1
著者:手塚治虫
出版社:手塚プロダクション
販売日:2014-04-25

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