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苦手な『ONE PIECE』(ワンピース)について弁護士の論を聞いたら全巻買いしてしまった話

私はONE PIECE(ワンピース)が苦手だ。

チョッパーが出てきてめそめそぐじゃぐじゃしゃべってるのを見て、「あっ、これ自分に合わないな」とそのあたりから読むのを放棄していた。

途中で読むのをやめてしまう作品というのはたまにあるが、この作品の場合、いろいろな理由が重なってもういっぺん読むことに抵抗を感じるものがあった。

なぜだろう。

 

結構漫画好きの人たちの中にも「ONE PIECEは読んでません」という人がいたりするので、そのあたりを気にすることなくすごしていた。

 

そんな折だ。

 

あるメッセンジャーグループで、友人の小野田峻弁護士からこんなメッセをいただいた。

 

「今度、ONE PIECEを、単行本じゃなくてジャンプで読む意味についても語らせてください」

 

来た。

大の苦手のONE PIECE

こいつはこまったぞ。

しかも「読む意味」とか掘り込みが深そうだぞ。

しかし、私の漫画好きとしてのなにかにふれたのかとっさに次のメッセをかえしていた。

 

「ぐはぁ。よりによって苦手なONE PIECE話。このあいだ、***とボコボコに話したのがONE PIECEでした。」

 

こうなるとガンマンvsガンマンだ。

いや、マンガマンvsマンガマンだ。

 

そこに小野田弁護士はこう切り返してきた。

 

「お二人の会話とは別次元で尾田先生は仕事されてると思いますよ。いずれにしろ、川口さんとはガッツリ漫画の話がしたいなと思ってたので。とりあえず今度飲みに行かせてください」

 

“別次元”、きた~!

まさに「魔裟斗くん、二人で試合でもして日本を盛り上げましょう」だ。

いや、違うか。

でも「マンガ論、ばっちばちにやりやしょう」的な小野田弁護士の空気を勝手に察した私は、なぜ自分がONE PIECEを苦手になったのかを知っておく必要があった。

 

そこでマンガ新聞のレビュアー定例会でお馴染みの岡田あっくんに相談をしてみた。

どこで読むのをやめたのか、自分がONE PIECEをどう思っているのかを二、三話していると、あっくんの口から貴重な言葉が出てきた。

 

ONE PIECEはマイルドヤンキーですからねぇ。ガチのが好きな人は苦手かもしれませんね。」

 

そう。それだ。

マイルド海賊なのだ。

自分が好きな海賊はやはり『COBRA』だ。

サイコガンで次々と敵の腹を打ち抜き(なんでか腹狙いが多い気がする)、背中にどどーんと入ったイレズミの女を助けたり、拳でパンチ殺なんてのもざら。

ワイルド海賊への憧れが少年時代からの下積みにあってか、ONE PIECEはやさしく見えてしまっていたのかもしれない。

 

そしてもうひとつ。

どんな設定の何のキャラだか知らないが、ゲーセンのUFOキャッチャーで見かけるフィギュアで昔からひかれつづけているキャラがいた。

ボア・ハンコックだ。

漫画のマーケをされている方。

作品を読んでもいない人がキャラ名をUFOキャッチャーのフィギュアで完全に覚えているってこと……あるんですよ。

それをあっくんに伝えると。

 

「ああ、ボア好きならそれが出てくるところまで読んだらもう好きになりますよ」

 

なるほど。

 

さらにこのあっくんとの貴重なスパーリングでわかった自分の苦手としているイメージがわかった。

キャラが背中を向けて横並びになって片手をつきあげているあのイメージだ。

読んだことないシーンなのに「そういう漫画なのかな」という印象を受けて、どうも苦手で。

 

さぁ、いよいよ小野田弁護士との試合の準備が整った。

まとめるとこうだ。

 

・マイルド海賊なのが苦手。

・横並びになって片手をあげているアレが苦手(その真似をしている人たちの画像も苦手)

・ボア・ハンコックが気になる。

・アニメの主題歌は大好き(ウィーアー!)

 

さぁ、いよいよ決戦のとき。

会場は本郷の焼きそば屋。

立会人の方も二人いる状態で(勝手に立会人扱いですみませぬ)。

まず、口火をきったのはこちら。

 

「小野田さん、今日はONE PIECEの話をしにきました。これでぐっときたら全巻買いますよ」

 

その瞬間、小野田弁護士は笑顔になった。

「言いましたね? よしっ」

 

カァーン!

鳴っちゃいないけど、心のゴングが鳴らされた。

ファイッ!!!

 

まずは一通り、スパーリングのときにわかった苦手ポイントをこちらから列挙してみた。

そのときに「背中向きの横並びで手をあげているアレが苦手」であることを伝えると、なにかそこから得たのか、小野田弁護士の眼が変わった。

 

「どうして川口さんはアレが苦手なんですかね。あれは確かに仲間の証ですけど、ワンピースの仲間って、仲良しこよしなわけじゃないですよ」

 

“仲良しこよし”。

 

この方は一発でこちらを見抜いた。

 

べたべたゆるゆるの“仲良しこよし”が苦手なのだ。

 

「ワンピースの仲間はですね、支え合うとか馴れ合うとか、そういうんじゃなく、方法論も生きる目的も違うキャラクタ同士が、互いに自分の持ち場で役割を全うするだろうってことを一片の疑いもなく信じてる関係性のことなんですよ。で、その関係性が示された上で、ニコ・ロビンってキャラがいまして~」

 

ここからが長かった。

めちゃ長かった。

ニコ・ロビンというキャラが登場するアラバスタ編の話に始まり、どうしてバラバラの人間たちがひとつの想いに結ばれて、ああいう風になったのかの説明がとつとつと続いた。

 

なんだ。“仲良しこよし”どころかバラバラじゃないか。

これがひとつ目の気づきだ。

 

そしてこの話の中に小野田弁護士は、ニコ・ロビンというキャラのポジションについて丁寧に話をまぶしていった。

 

要約すると「社会のどこにいても偽りの理由でお尋ね者と後ろ指を刺されて、所属意識がない人だけど、主人公がそんな彼女を一片の疑いもなく仲間に入れと誘い続けた」という話だ。

 

これも気づきだった。

自分は転職経験があり中途入社なので、自分の居場所を信じられない一方で、その居場所を作ろうとしてくれる人がいるというその設定に妙にひかれた。

 

その場でスマホ検索してみると、腹を出したニコ・ロビンのコスプレ画像がたくさんヒットした。

みんなに愛されてるんだな、このキャラは。

あと「生ぎだいっ!!!」というニコ・ロビンの切実なセリフについても小野田弁護士は懇切丁寧に説明してくれた。

 

しかし、“仲良しこよし”じゃないことがわかって、ニコ・ロビンの人間味がわかっても、「さぁ全巻買うぞ」とは思わなかった。

 

しかし、今思えばここまでは「まずはガードをはずさせて」といった小野田さんの巧妙なテクニックだったのであろう。

そこから、小野田さんの攻撃が始まった。

ONE PIECEは週刊ジャンプの連載で読むべきなんです。なんでかわかりますか?」

 

ぬぅ。恐ろしい。

でも知りたい。

私のチン(顎)はこのときにすでにちらちらとお留守になっていたのかもしれない。

ぐぐぐっと私のスタンドごと前にせりだしてしまった。

 

「まず、ONE PIECEの世界は、時間軸として、現歴史の前に、世界政府っていう中央権力が隠蔽した別の歴史があることを前提にしているんです。つまり、歴史の勝者が隠した前史がある。ONE PIECEは、その前史が刻まれた遺跡を読み解いていくストーリーでもあるんです。その遺跡ってのはポーネグリフって石版なんですが、まあ、オーパーツみたいなやつです」

 

きた!

オーパーツ!

ムー世代にはたまらない響き。

 

「で、このポーネグリフを読める学者は、世界中でニコ・ロビンだけ。なんでそうなったか、というのが語られるのが、幼少のニコ・ロビンが育ったオハラという島でのエピソードです。オハラにある図書館には、世界の前史を極秘で研究する学者たちがいて、膨大な資料が貯蔵されているわけですが、そのオハラが世界政府に焼き討ちにあって、ロビンだけが何とか生き延びる。結果としてポーネグリフを読める学者は世界中でロビンだけになる。そのエピソードの連載からまもなくのあの時期、私は車の中のラジオでとあるニュースを聞いたんですよ。確かこんなニュースでした。「北海道大学に所蔵される、金田一京介先生と萱野茂さんがフィールドワークで集めた膨大なアイヌ民族の口伝の資料が、先日萱野さんが亡くなったことでその大半が誰も読めなくなった」と。鳥肌が立ちました。日本の前史の記録を読み解ける人がそもそもひとりしかいなかったという状況、オハラのエピソードと同じじゃないか、と。そもそも全くの偶然かもしれませんし、同じことを指摘している書評も見たことがないので私が勝手に言ってるだけなんですが、個人的には尾田先生は意図して書いてたんじゃないかと思ってます。少なくとも、日本の前史とその研究に取り組んだ学者たちの不遇をご存知の上で書いてる」

 

おいおい、まじかよです。

まさかあのオープニング曲でそういった読み解きもののイメージはまったくなかった。

いやはや。

 

「さらに、パンクハザード編、ドレスローザ編から今のワノ国編まで、ストーリーを通じて、原発事故や現政権を取り巻く様々な考え方のメタファーも巧みに織り込まれています。単なる権力の暴走や言論統制への当てつけではなく、様々な立場の正義の衝突や、組織の中で蔑ろにされ、あるいは思い悩む個人といったものについても描かれています」

 

政権。

言論統制。

国際ニュースや政治ニュースで見るフレーズが飛び出した挙句のこれです。

 

「重要なのは、これを、少年漫画の王道も王道、週刊連載のジャンプでやってのけてるってことです。読む人が読めばわかりますが、尾田先生はその都度、世界や日本の現状、というか空気感のようなものをONE PIECEの中に織り込んでいるんです。漫画を通して戦ってるなって感じる漫画家さんってたくさんいますけど、尾田先生も間違いなくそのおひとりだと思います。だからONE PIECEはタイムリーに週刊で読む意味があるんです」

 

アッパーカット(サガットの声)。

ううううううううううううううっ(リュウの声)。

KO

 

その後も小野田さんは「さらにですねぇ~」と続けていたが、私の手元ではすでにスマホでワンピース92巻分の購入ページが開かれていた。

 

購入ポチ。

 

連載にはやく追いつきたくなるし、読み解いてみたくなるし、ボア・ハンコックは気になるし、でもう押していた。

小野田さんとボア・ハンコックが川口の背中のほうから両肩に手をそえて押させたイメージだ。

 

焼きそばそっちのけで語り続ける小野田弁護士にその購入ページを見せると……

 

「まじですかっ! やった!」

 

そこから食もお酒も進んでとっても楽しい宴となり、さらに他のコミックシリーズも小野田弁護士の論をきいてポチってしまった。

 

いや、本当に小野田さんの言葉とソウルに感嘆してしまった。

皆さん、小野田弁護士との漫画飲みは刺激的でとっても楽しいですよ。

 

そして、漫画のマーケに携わられている方に自分の例からこんなことをお伝えしたい。

 

・苦手と好きはひょっとすると近い。

UFOキャッチャーのフィギュアは刷り込みになる。

PR活動を小野田弁護士へ依頼をしたほうがよい。

・どのコマでどんな間違ったイメージをもっている人がいるかの情報は貴重。

 

私はこの夏、どっぷりとONE PIECEに読みふけり、最新刊も買ってジャンプ連載に追いつきたいと思う。