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あなたにとっての「死」とは? 漫画 『不滅のあなたへ』から学ぶ生命のデッドライン

  

 

こんにちは。神保町にある「漫泊=一晩中マンガ体験」MANGA ART HOTEL代表の御子柴です。

 

今回ご紹介したい漫画は少年マガジンで連載中の名作『不滅のあなたへ』です。
『聲の形』も有名な大今良時先生の作品です。

 

この作品、主人公が死にません。不滅です。

 

 

不滅のあなたへ(1) (週刊少年マガジンコミックス)
著者:大今良時
出版社:講談社
販売日:2017-01-17

  

 

 

主人公〈フシ〉は最初は生命体であるかもあやしいものなのですが、徐々に文明を理解して言葉を学び、自己の存在や宿命をその時に及ぶ限りの知識で解釈していきますが、肉体的に不死身=「不滅」です。

 

ゆえに、余りにも長い時間が経過していくことで、〈フシ〉に関わる人間たちは老いて死にゆき、自分だけが孤独に取り残されて、それでも生き続けます。

 

〈フシ〉やほかのキャラに感情移入して読んでいくと、なんとも言えない寂しさがどんどん積み重なっていきます。
(この辺りの時間感覚の設定が自分の好きな『銀河の死なない子供たちへ』と似ていてグッときます 笑) 

 

 

銀河の死なない子供たちへ(上) (電撃コミックスNEXT)
著者:施川 ユウキ
出版社:KADOKAWA
販売日:2017-09-27

  

 

 

 

〈フシ〉の心の中の「悲しみの蓄積」は人とのふれあいを通して、また、言葉を理解してから一気に加速していきます。
幸せを感じるほどに、悲しみはより深いものになってしまうのでしょう。

その「悲しみの蓄積」 から、主人公の〈フシ〉は、今まで全く異なるスタンスで不死であることを辞めようとしながらも、宿敵ノッカーとの戦いも続けなければいけないという葛藤のなか、成長していきます。

 

 

 

©Yoshitoki Oima/講談社

 

 

 

あの名著『「死」とは何か-』で描かれていた死のリアル

 

ここで一旦漫画の話から逸れます。

普通の人は自分の死というものをリアルに想像出来ないため、自分自身の「制限時間」が分からずに、人生の目的などについて真剣に考えることが少ない、という本『「死」とは何か-イェール大学で23年連続の人気講義-完全翻訳版』が最近バカ売れしています。

 

各論で帰納的な証明のためのケーススタディが多く、読むのもじつは疲れる本ですが、多くの気付きを与えてくれる名著なので、一緒にオススメいたします。

 

 

 

 

この本では、肉体的な死を思い浮かべる際に、自分自身を上空から客観視しているような情景を思い浮かべるが、自分自身が死んでいたらそれを知覚することはできない、としています。

 

つまり、自身の死を想像するということはそもそも難しく、自分は死なないと思ってしまうことに繋がります。

 

自分が死ぬ直前の場面を想像するくらいのことしか出来ない場合が多いため、「その瞬間のリアル」をイメージすることは本当は誰にだって難しいはずです。

 

結局のところ、人は自分が本当に死ぬとはリアルに想像できずに生きている。それゆえ「死ぬまでにいかに生きるか」を真剣に考えない人がマジョリティとなるため、この本は「いかに生きるか」を結論として締めくくられています。

 

ちなみに、この本では「『不死』は災いであり、恵みではない」とされています。

自分自身の命の制限時間 「デッドライン」

漫画のお話に戻ります。

 

主人公は永遠の命を持つ〈フシ〉ですが、〈フシ〉は触れた生物に姿を変えることが出来ます。肉体的に死ぬと再生します。つまり肉体にあらゆる制限がありません。

 

寿命のある人間にとって、死は逃れることのできないものです。

上記の書籍『「死」とは何か』と同様、本作にも「死ぬまでに短い人生のなかで何をすべきか」ということが何度もテーマとして出てきます。

 

しかし、〈フシ〉には寿命や死ぬ可能性という時間的・肉体的な制限が無いので、いつまで、に何を、どうすべきか、という考え方がありません。

 

そんな〈フシ〉ですが生きていくなかで出会った、人間やその他の生命あるもの=「対象」と関わることで、初めて「生きている目的」を学び、感じ、ノッカーを倒すという運命に身を投じて行きます。

 

また、不死身の〈フシ〉が出会う人々や仲間は、みな時が過ぎれば死んでいなくなります。

ノッカーに殺されてしまうこともあります。

そんな自分の宿命を呪い苦しみ、不死であることを放棄したいと葛藤のする〈フシ〉はどうしても死ねないのです。

 

本当の孤独。どれだけ苦しいことか。



私たちが〈フシ〉だったらどんな人生を送り、何のために生きるのでしょうか。
普通、自分自身の人生の目的などを考える際に「いつまでに」と期限を設けます。

一方で、〈フシ〉には死という「デッドライン」、つまり時間制限はありません。


『不滅のあなたへ』を読むと、死という制限がなくなったとき、どんな目的を持ち、いかように生きていくのかを知ることができます。

 

不死の人間にとってそれがどんな意味をもたらすか、を想像すると、今、命の限りのある自分を顧みる一助となります。

 

この作品では魅力的なキャラクターがたくさん出てきますが、登場人物が〈フシ〉のような永遠の命になりたいと思うどころか、「不死に憧れない」という設定がなかなかに面白いなあと思います。

 

自分が死ぬまでにいかに生きるか。

 

残りの人生を悔いなく生きていくことを考えるきっかけになりそうなユニークな作品です。

 

 

 

©Yoshitoki Oima/講談社

 

 

©Yoshitoki Oima/講談社

 

現在連載中ですが、テーマや設定から想像すると今後も長く続きそうです。

このレビューをお読みいただいたのを機に既刊を読んでみませんか?

明日からの生き方が変わるかもしれません。

 



MANGA ART HOTEL では本作品の日本語版/英語版を置いています)