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エロマンガに全てを賭ける女性漫画家の凄みと寄り添う女性編集者『あーとかうーしか言えない』

こんにちは!東京ネームタンク代表のごとう隼平です。

『成人向け漫画編集部を舞台とした「あー」とか「うー」しか言えない女性漫画家と女性編集者の話』というと何かエロティックな漫画、と受け取られそうですが、内容はまさに「王道」の人間ドラマです。

バクマンでも言っていた「王道マンガ」とは何か?

バクマンの中で主人公たちが求めていた「王道マンガ」。
でも、「王道」って一体なんでしょうか。みなさんはどんな作品を王道であると感じますか?

感じ方は人それぞれですが、僕は多くの漫画企画に触れ、王道とはここに尽きるなと思っています。それは何かと言うと…

「主人公への期待感」です。

悟空ならやってくれる、
ルフィならなんとかしてくれる、
両津勘吉ならやらかしてくれる、

という主人公に期待せずにはいられない漫画……これこそ王道ではないでしょうか。

そしてそんな漫画は……もしかしたらこの時代少ないのかもしれません。ニッチな隙間を狙ったり、企画をひねったり、漫画が溢れる中でこまごま工夫を凝らした作品が多く感じるのは否めません。

 

そこにきてキャラクターの魅力だけ、その人間を描くだけで引き込んでいく作品は久しぶりと感じ、今回オススメとして取り上げました。

 


 

©近藤笑真 / 小学館

 

 

主役は「あーとかうーしか言えない」女の子

成人向け漫画家の戸川セーコは、自分の言葉を出すのが苦手。

質問されると頭がぐるぐるして、結果「あー」とか「うー」という発言が多くなります。
こういうコミュ障っぽい主人公は他作品にも少なくないですよね。その弱点に悩み成長し乗り越える物語はよくありそうです。

 

 

©近藤笑真 / 小学館

 

でも戸川セーコはそうではない。この作品においては「あー」とか「うー」しか言えないことは弱点として描かれません。これがいつのまにか「期待感」に変わる……そこが見どころです。

彼女はまったく「あー」とか「うー」しか言えないわけではないんですね。短いですが他の言葉も発します。

「あー」「うー」と思い悩んだあとに何と言うのか。ここにグッと掴まれる感情体験をいつも用意してくれるから、どんどん彼女に引き込まれていきます。

 

キャラクターに弱点を作るといい、なんてHowtoはもう古い

正確には忘れてしまいましたが、昔の漫画の描き方の本には「主人公には弱点をつけると良い」と書いてありましたよね。例えば主人公にドジという弱点をつけて、読者と変わらない人間なのだ、と親近感が得られる、みたいなニュアンスだったように思います。

しかし今作は「あー」とか「うー」しか言えないという弱点はあるものの、まったくそれで読者である自分と近いな……とは思えません。

むしろ逆です。この「あー」とか「うー」しか言えないことが作家としての凄みに繋がっています。

 

 

 

©近藤笑真 / 小学館

 

 

作品に対する言葉にならない圧力に、震え上がる打ち合わせ風景。見応えありますよ!

 

 

 

©近藤笑真 / 小学館

 

 

本質の追求に言葉は不要。

「性・生・聖」……性と創作の追求は、人間の根源を見つめることだと思います。コミュ障がどうのこうの、とか、そんな小さな次元ではなく、彼女の悩みは唯一、神様の領域までに辿り着きそうなくらいの本質の追求です。

「あー」とか「うー」しか言えない、そんな彼女だからこそ辿り着ける、言葉を超えた何かがあるのではないか…、その期待感。

本作を漫画家視点で考えると「成人向け漫画編集部を描くお仕事マンガ」とか
そこに「男性向けマンガ編集部に女性漫画家を入れる」みたいなアイデアは、それなりに出そうなものなんですよね。

しかしそこに「あー」とか「うー」しか言えないキャラクターを用意した。
この采配は見事としか言いようがない。そこから創作や命の本質すらも見えそうなミラクルイノベーション。

あー!