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【今週末選挙】選挙に行く本当の意味を知れるマンガはこれだ!

その手にある投票用紙は何のためか?

第25回参議院議員通常選挙戦の真っただ中、誰に一票を投じようか。どの政党を選択しようか。

そもそも投票に行くかどうか(行きましょう!)。

誰もが心の投票用紙を握りしめていることでしょう。 

 

自分の投票行動に、思想や軸を持っていれば一票の行き先は明確でしょう。また、何も考えず、誰かに言われるがままに入れる場合も同じです。

誰にも入れたくない、そもそも選挙に興味がないなんで言わないでください。 

 

そして、投票に行く前に、一度でいいので『スラップスティック』を読んでみてください。

ボードに掲出されたポスターに映るひとたち、政党が掲げる公約が、強い色彩を帯びて見えるようになります。 

 

詰所で暮らすシングルマザー家庭。目標は「普通」になること

 

北関東で暮らす、血のつながらない家族の実話。

詰所で暮らす母親と二人の子どもは苗字が異なります。複数の仕事をかけ持ってもシングルマザーである家庭の生活は厳しく、子どもたちの心は荒んでいきます。 

 

暴力によって自分を守り、暴力によって自分を傷つけていく兄の目標は「普通」。

当たり前の「普通」がない子どもたちにとっては、夢よりも希望よりも「普通」という生活を欲します。

そして、常に「普通でない」ことで諍いが起こり、「普通でない」ために喧嘩が絶えません。 

 

愛としつけと虐待と暴力

シングルマザーで必死に子どもを育てる母親は、ブレーキの効かなくなった長男のようにならないよう、9歳の立花春人(たちばな・はると)をしつけます。

 

働いてもよくならない生活ゆえに、周囲から偏見の目が我が子に向けられ続けることに耐えられる親はいません。 余裕のない生活と子どもへの愛情は、ときに過剰なしつけに発展します。 

裸にして、トイレで鞭打ちをするのも、我が子を愛するがためのこと。

子どもにとってそれは母親の〈愛情の形〉として受け継がれていきます。

 

 

母親だけではありません。

暴力によって仲間や家族を守り、その暴力によって家族を傷つけ、自分を追い込んでいく兄の姿は、見るに堪えられません。

 

単純に乱暴な人間だと切り捨てようにも、兄が生まれ育った環境を見れば、その暴力性や粗暴性は生来のものではなく、環境によって作られたものだということが理解できます。 

 

その理解があれば、環境を変えることによって他者とのコミュニケーションを暴力以外の形で行えるようになるはずです。

シングルマザー家庭であること。

近くに寄らないでほしいと陰口を叩かれること。

誰からも期待されないこと。

「強さ」なくしては生きていけない時、ひとは身に付ける強さの性質を暴力でコーティングするのかもしれません。 

 

毎日のように兄から暴力を受け、母親から虐待されている反面、それでも自分に愛情を注ぎ、守ってくれている家族。

春人にとっては殺してやりたいほど憎い存在です。

同時に、家族に守られている自分の無力さを責め、やがて「何も期待しない」ことで自我を守るようになります。 

 

 

家族から逃げないと自分が壊れる

10歳前後の子どもが、

「中学校を卒業したら家を飛び出し、家族から逃げよう。そうでもしないと自分が壊れてしまう。だから残りの数年はこのまま耐え抜きながら、じっとしていよう」

と選択肢のない人生を諦める思考は、どれだけ置かれた環境が厳しく、そして簡単に捨てられないものであったのか、と思わずにいられません。 

 

「子どもの貧困」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

多くのひとが想像する貧困は、食うものも寝る場所もなく、いつ死んでもおかしくない生活かもしれません。

しかし、日本における貧困は、非常に見えづらいと言われています。 

 

貧困は衣食住だけに影響を与えるものではありません。

心身の健康や学力、ひとを信頼できるかどうか。

自己肯定感を高く持つことができるのか。

そういう社会関係資本や文化資本の形成と蓄積にも影響を与えます。 

 

実際、それがどのようなものなのか。

たまたま恵まれた家庭に生まれた人間にはうまく想像できない日常を、『スラップスティック』は、読み手がページをめくることを躊躇するほど、鮮やかに描きます。

淡々とした日常を、淡々と描くなかで、手が止まるのです。

目を覆いたくなるような描写ではないのに、です。 

 

 

選挙に行くべき理由

こんな家庭があるのか。こんな子どもたちがいるのか。そんなことを考えながら読み進めて行けば、当然、私たちがたどり着く場所は決まってきます。 

 

「どうしたらいいのだろうか」 

 

それが本書が導く着地点だと思います。

そう、どうしたらいいのかを考えなければなりません。

そして、個人や団体でやれることにも限界があります。私たちは、自分のできる範囲のなかで、やれることをやりましょう。 

 

しかし、自分の生活圏から遠く離れたところにも、同じように困っているひとたちがいるはずです。

日本の社会のどこにいたとしても、つらい状況にある子どもたちが、笑顔で未来に希望を持てるようにためには、どうしたらいいのか。 

 

そう、選挙です! 

 

目の前を通過した選挙カーから連呼されるのが、ただの「名前」なのか、それとも困っているひとたちを見据えた「施策」なのか。 

 

公約として掲げられているものは、本当に本書に登場するひとたちの生活を少しでも良くするものなのかどうか。

SNSで発信されるコメントや映像は、日本の未来を見据えたものか。

または自分の選挙後の姿しか見てないのか。 

 

候補者や施策を選ぶ視点や観点は、ひとにより本当に多岐に渡ります。

しかし、その視点のひとつ、観点のどこかに、『スラップスティック』で描かれる世界のひとたちのことを入れてください。

 

いま投票しようとしているその一票が、自分なりの最善の選択かどうか、投票のギリギリまでしっかり悩みましょう。 

 

 

>>>第一話試し読みはこちら

 

 

スラップスティック 1 (ビッグコミックス)
著者:青野 春秋
出版社:小学館
販売日:2015-09-11