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NYが「ゲイ・プライド」でレインボーに染まるとき『パッション・パレード』の面白さを思い出す

ニューヨーク・シティは6月に入り、徐々に街中がレインボーに染まっていきました。1970年から6月最終日曜日に開催されている「ゲイ・プライド」のパレードを記念してのものです。

その中で私がこのテーマを初めて意識したのはいつだったのかと考えたとき思い出したのが樹なつみ先生の『朱鷺色三角』『パッション・パレード』です。マイノリティが生きることの難しさと、それをどう乗り越えていくのかが描かれていると思います。

サスペンスから米国が舞台の青春物語に

 ニューヨーク・シティでは1969年に同性愛者向けのバー「ストーンウォール・イン」への警察の強制捜査をきっかけにお客さんと警察がぶつかり、暴動に発展しました。LGBTQの人権運動が全米に広がるきっかけになったといわれています。今年はこの事件から50年ということで、事件を振り返る企画などもあります。

 ニューヨーク公共図書館ではLGBTQをテーマにしたマンガの読書会が開かれ、別の公共施設では映画の上映も。主な書店ではLGBTQにフォーカスした本を集めたコーナーが作られ、日本のマンガでは『弟の夫』の英語版がエントリーしていました。


街中の小売店やレストラン、デパートメントの店頭にはレインボーの旗が並びます。早い時期からとても考えられたデザインにし、レインボーをあしらった商品を売るところもあれば、「周りにあわせて旗を掲げてみました」というところもあり、意識差がなかなか興味深いです。きっと、ニューヨーク・シティの中でも、そして米国中でも受け止め方に差があるのでしょう。


この人による受け止め方の差を初めて実感したのが『パッション・パレード』です。超能力を持つ主人公のひとり、穂津見霖(ほづみ・りん)が関わる穂津見の家の古い血筋と遺産をめぐる謎の事件が物語を展開した『朱鷺色三角』の続編で、事件終了後に霖が米国にバスケ留学をすることに。ということで『パッション・パレード』は米国での学園生活が中心になります。

 霖は日本で超能力が使えかつ母親がハーフということで「マイノリティ」だったのですが、舞台が米国の高校に移ることで、霖は日本人ということでマイノリティになり、さらに黒人というマイノリティに出会います。

 ゲイの男性もそのマイノリティに属する一人。霖の所属するバスケチームのコーチを務めていますが、高校のあるイリノイ州は保守的な地域でゲイであることはオープンにしていません(というよりできないと描かれます)。

一方で霖が仲良くなる黒人の少年の兄弟はシカゴのゲイの集まるアパートメントに住んでいます。一口に米国といっても広く、必ずしも同じ価値観でないことを、もちろん作り物語の中と思いながらも実感した瞬間でした。


マイノリティであることを受け入れて生きていく


 同時に『パッション・パレード』は、マイノリティに属する人たちが、周りからの攻撃と誤解をどう乗り越えていくかというテーマを含む、人種問題の物語でもあります。霖は超能力があり、かつ母親の特徴を引きついたことで色が白く日本では「少数派」でした。米国に来ればイリノイ州では「日本人」という少数派。

そしてもちろん米国には黒人だけでなくいろいろな立場の少数派がいます。そもそも高校に「バスケ留学」をしてくる人は「少数派」で、普通に勉強をしている生徒からすれば異端に映るようです。

 もちろん少数派にはしばしば攻撃的・排他的な言葉がマジョリティからなんの悪気もなくかけられます。弱っているときに読むとぐさりときますが、救いなのは悩みながらも霖らが正論を考え出そうとすること。少数派には救いになると同時に、このような意見を読みながら、少しずつ多数派は少数派が何を思っているかを知っていくのだとも思います。
 

多数派は本当に「多数」なのか

 『パッション・パレード』が面白いのは、多数派を「多数」のままにしておかないことです。ひとことで「多数」といっても、構成するひとりひとりを見ていけばみな考え方や本質は違うもの。それは米国の保守的な地域で「多数派」となる「白人」ももちろんそうです。(それを10代の、霖が気が付くのはすごい。大人です)

 しかも
霖と同じようにバスケ留学をしている人たちも思いはそれぞれ――つまりバスケットボールなど同じことをしている人、同じものが好きなで価値観や時間を共有できることもあれば、同じことをしていても決して通じ合えない人もいる――そんな中で価値観が合い、ずっと一緒にいたいと思える人に出会えることは幸せだよね、というのがきっと本編が伝えたいのではないかなーと思います。

 個人的には『朱鷺色三角』のサスペンス部分が、横溝正史的な日本的なドロドロにあふれていて好きなのですが、その後の考え方への影響という点では『パッション・パレード』の方が大きかったです。

初版は1980年代後半ですが、もちろんまったく古臭くなく(せいぜい日本と米国の連絡が手紙なぐらい)、繰り返し読みたくなる作品です。自分が少数派になったとき、勇気が欲しくなったら手に取ってみてください。



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