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歴史マンガの新機軸!『新九郎、奔る!』はなぜ目の肥えた歴史ファンから絶賛されるのか?

突然だが、みなさんは、マンガを買う際、SNSでの“オススメ”をどれだけあてにしているだろうか?

 

実は私はあてにしたことがあまりない。

(そもそもマンガの情報はSNSから入ってこない)

なぜなら、情報元が偏っているからだ(笑)

 

私は日本史好きで、同じ趣向の方々をフォローしている。

つまり、Twitterを立ち上げると日本史に関するツイートが上部に出てくるようになっている。

日本史に関するツイートとは、主に歴史や城に関する豆知識や歴史研究本や新書情報、「ヒストリア」などの歴史番組に関する話、と思ってもらっていい。

 

マンガについては(私の見逃しがあるかもしれないが)見る機会はあまりない。

なので、マンガは主に書店巡りの中で見つけることがほとんどだ。

 

そもそも日本史好きな方は、日本史を題材にしたマンガには辛口だ。

(※個人的な見解です)

ディティールにうるさく、史実との比較検証は当たり前。

引っかかるところがあれば「こんなんじゃない」と一刀両断だ。

 

このジャンル自体、フィクションに振り切った作品は数多くある。

だが、史実や最新の研究をしっかり踏襲し、玄人たちを納得させる物語を創り上げている作品はごくわずか。

最近は寡聞にしてお目にかかったことがない。

 

そんなあるとき、いつものようにtwitterを見ていると、日本史好きな方が何人も、リツイートやコメントを寄せている作品があった。

 

それが、今回ご紹介する『新九郎、奔る!』だ。

新九郎、奔る!(1) (ビッグコミックス)
著者:ゆうきまさみ
出版社:小学館
販売日:2018-08-09

口うるさい(※個人的な見解です)歴史ファンの間で盛り上がっている作品。

読まないわけにはいかない。

 

で、読んでみた。

 

思わず快哉を叫んでしまった!

流石、歴史ファンの方々の目は肥えている(笑)

 

なぜ、歴史ファンがこの作品を高く評価しているのか。

それは“歴史好きのツボを突く本質描写”だ。

題材は戦国時代の先駆者・伊勢新九郎(後の北条早雲※)

これまでは一介の素浪人出身と言われていたが、最近の研究でその素性が明らかになり、イメージが大きく変わった英傑だ。

※厳密にいうと、本人は北条早雲という名を名乗ったことがないのだが、通りがいいこの名をこのレビューでは使わせていただく。

 

物語は室町時代後期、この新九郎が故郷の備中国(現在の岡山県)から京都にやってくるところから始まる。

新九郎は室町幕府財政を切り盛りする伊勢家一族(要するに高級官僚一家)の子ということもあり、よく言えば穏やかで優しい(悪く言えばいい家育ちのボンボンな)雰囲気。

その周辺の様子もどこかのほほんとしていて、ホームドラマのような柔らかさな日々が続く。

だが、その雰囲気は伊勢家屋敷の中だけ。

屋敷の外は厳しく過酷なものばかりだった。

伊勢家当主・貞親のとある行動がきっかけで伊勢家は一夜にして没落。

しかも、将軍の気まぐれで滅亡寸前まで追い込まれる悲しさ。

そして、風向きが変われば、いっぺんに変わっていく人の心。

まるでドラマみたいな展開だが、元ネタは全て史実。

まもなく応仁の乱が勃発しようとしているこのとき、人の心の不可思議さ。その移り変わりが、多くの人の怒りや嘆きを増幅させていった時代だったと言える。

だからこそ、若き新九郎の叫びが胸を打つ。

「御所様のようなお立場の方が一度交わした約束を破るべきではありません!」

 

曖昧さと権力が結びついて、正直者がバカを見た時代。

そして、立場が人を腐らせる時代。

だからこそ、その理不尽さと虚しさをおかしいと感じるその心こそ、次の時代に必要なもの。

親しみやすいビジュアルと、史実に沿ったハードな展開。

でも、今にも通じる本質は外さない。

そのギャップが歴史好きにウケているのだ。

とはいえ、後に下克上の幕開けを告げる英傑も、まだ元服前。

正面突破の選択肢しかない彼が、どのようにして道を切り開くのか。

(でも、思い立ったら行動するその爽やかさが、読んでいて清々しい)

本作は現在2巻まで刊行されているのだが、まだまだ先は長い。

冒頭のシーンにいきつくまで何年かかるのか(笑)

ちなみに、本作では現代語がセリフに入っていたり、現代ギャグを入れ込んだり、と史実重視の方が読むと眉をひそめるところがあるが、この作品に関して言うと、それらがかえって作品を奥深くしている。

『機動警察パトレイバー(マンガ版)』などで根強いファンの多いゆうきまさみ氏が、読みやすく、わかりづらく感じさせない描写力で新たな歴史マンガの可能性を切り開く。

歴史がわからない方でも楽しめること請け合いだ。