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【漫画 温故知新①】伝説といわれる作家・一ノ関圭『俺が愛した女』は28ページの芸術である

 

今回は伝説の作家・一ノ関圭氏。

わたしにとっては、手塚治虫先生に次ぐ神作家である。

 

たった28ページの作品が永遠に語られる

彼女の作品は、どれもが珠玉の輝きを放つ。
日本の近代絵画界を描いた鮮烈なデビュー作にして第14回ビッグコミック賞受賞作『らんぷの下』も、もちろんお薦めなのだが、やはり一番好きな作品を紹介したいと思う。

それが短編作品集『茶箱広重』に収録されている『俺が愛した女』である。

 

これは明治時代を背景に、筑豊で働く実直な炭鉱夫・定吉と誇り高い新橋芸者・お遼との愛の物語だ。

 

馴染みにしていた芸者を身請けしようと置屋を訪れた定吉は、お目当ての女が別の男と一緒になったと知る。

嫁を連れて帰ると炭鉱仲間に約束していた定吉は途方に暮れるが、代わりに新橋の芸者・お遼を半年間かくまってくれと頼まれる。お遼は朝鮮にいる軍人のもとに嫁ぐことになっていたが、半年間、身を隠さねばならない理由があったのだ。

 

そして炭鉱でお遼と定吉の偽りの夫婦生活が始まる。

 

たった28ページの作品なのだが、重厚で計算しつくされた物語は、映画をまるまる一本観たような気にさせられる。

 

漫画界の伝説といわれる卓越した画力とストーリー

芸大油絵科出身である一ノ関氏の筆は、表情から筋肉の一つひとつまでを情感豊かに描く。

芸者と炭鉱夫、ある意味、肉体そのものを糧とする職業だ。

それぞれの裸体の美しさが光る。

 

女を救おうと褌一丁で走る男の握りしめた拳の一途さ。

男の夕餉に魚を求め、小走りで行商に駆け寄る女の足のなまめかしさ。
どんな小さなコマにもその筆力が発揮されている。

 

まさに細部にこそ神は宿る、だ。

 

一ノ関氏の筆力に匹敵するものは、日本漫画界であれば手塚治虫先生に加え、高台寺の鳥獣人物戯画(これはわたしの中では漫画に属するのだ)であると勝手にわたしは決めている。

 

寡作でもいい。20年間待ってでも読みたくてたまらない

寡作の一ノ関氏が1975年にビッグコミック賞を受賞してから11年間に発表したものはたった16タイトルである。

それらは「一ノ関圭作品集」として2冊にまとめられており、今は幸運にも文庫版でも電子版でも読める。

 

だが予言しておく。

あなたはその2冊を読み終わったとき、もっと一ノ関氏の作品に触れたいと思い、この二冊がすべてと知り、一ノ関圭欠乏症になる、と。

このわたしがそうだったから。

 

しかし、ここで朗報を伝えよう。

2015年、一ノ関氏はほぼ20年ぶりに作品を上梓した。

そのタイトルはなんと『鼻紙写楽』、東洲斎写楽の謎に迫る一大江戸絵巻である!

 

20年待ったのは決して無駄ではなかった!

 

この奇蹟の作品はまだ完結していないが、一ノ関氏は必ずや続きを書いてくれるだろう。

 

読者よ、待て、そして期待せよ!

 

 

茶箱広重 (小学館文庫)
著者:一ノ関 圭
出版社:小学館
鼻紙写楽 (ビッグコミックススペシャル)
著者:一ノ関圭
出版社:小学館
販売日:2015-07-31