TOP > 完結漫画 > ノスタルジックな世界観で読者を魅了 『医龍』作者・乃木坂太郎が圧巻の構成力で描いたミステリー漫画『幽麗塔』

ノスタルジックな世界観で読者を魅了 『医龍』作者・乃木坂太郎が圧巻の構成力で描いたミステリー漫画『幽麗塔』
レビュー執筆者:かーずSP

 

ミステリー漫画『幽麗塔』

 

医療の実情の鋭く描いた『医龍-Team Medical Dragon-』の乃木坂太郎先生。その次回作がホラーミステリーで、ずいぶんと意外に感じたものです。

 

本作『幽麗塔』は「幽霊塔」ではありません。霊→麗にかけた造語タイトルです。

 

「百数十年もの間動かなかった時計塔が、2年前の夜、ただ一度だけ動いたことがある。昭和27年6月23日午後11時53分。藤宮たつが養女・麗子に惨殺された夜のことである。」

 

「麗」の意味は、その容疑者である「麗子」に由来しています。

 

時計塔には財宝が隠されている───幽霊塔の管理人の仕事を譲り受けた無職の天野太一は、男装の麗人・沢村鉄雄とともに、時計塔の財宝を狙います。しかし、建物には様々なデストラップや死番虫と呼ばれる、マスクをかぶった殺人鬼も潜んでいて……死番虫の正体とは!? 藤宮たつの殺害の真相とは!?

 

と冒頭から強いフックで読者を魅了。昭和中期のノスタルジックな舞台を美麗に描く、乃木坂太郎先生の筆致の凄まじさに圧倒されます。

 

その根底に描かれるのが、トランスジェンダーをはじめとしたセクシャルマイノリティ。鉄雄は身体が女でも、心は男。その葛藤に苦しみながら太一と行動に共にします。太一も、警察の目を逃れるための女装がきっかけとなり、セクシャルマイノリティに向き合うことになるんです。

 

本作で描かれる男装や女装は、緊迫したシーンを緩めるギャグであったり、物語を盛り上げる核でもあり、社会への問題提起も含んでいるという、複雑な趣意が込められています。

 

男の心と女の身体を持つ鉄雄の怒りが闇ならば、太一の存在は光。序盤は見栄っ張りで小物感丸出しなメガネ君の太一が、鉄雄との冒険によってぐんぐん成長していきます。中盤に訪れる、とある過疎の村の密室殺人を見事な推理で解決に導くところから覚醒していきます。

 

優れた身体能力や頭脳を持つ天才・鉄雄に影響された太一という凡人が、逆に鉄雄を正しい道へ導くという立場の入れ替わり……そのドラマチックなカタルシスが至高です。

 

トランスジェンダーを抱える登場人物が多い中、本来ならメインヒロインになりそうな沙都子の立ち位置が、コミックリリーフになっているのも新鮮です。苦労知らずのお嬢様で、恐怖で太一を裏切ろうとする汚い部分もあって、それすらも愛おしい。沙都子が、とある同性愛者と語り合うシーンが刺さります。

 

「男と女…大事なのはどっちを愛するかじゃなくて、どう愛するか、じゃねーのか……?」

 

これは恋愛観のみにとどまりません。自分らしく生きるには、何者になりたいのか。性的マイノリティを通して、万人が抱える葛藤を浮き彫りにさせています。

 

他にも見るべきところは数多くあります。幽霊塔のデストラップが悪趣味で、天井からすり潰されたり、逃げ込もうとすると四肢がスパッと切断されたり。いやーエグいっすね!

 

最後に、『幽麗塔』にまつわる複雑なバックボーンを紹介して終わりにします。

 

・まず19世紀のアメリカの女流作家、アリス・マリエル・ウィリアムソンによる小説『灰色の女』を、黒岩涙香が『幽霊塔』の題名で翻案した作品があります。
・その「幽霊塔」は、江戸川乱歩ほか数名によって、複数リライトされます。
・江戸川乱歩の「幽霊塔」に影響を受けた宮崎駿による「カリオストロの城」が劇場アニメとして公開。
・「幽霊塔」をモチーフにしたマンガ『幽麗塔』←今ココ

 

場外でも面白い系譜が存在します。興味が出てきましたら、まずお薦めは、宮崎駿がカラー口絵を描いている江戸川乱歩の「幽霊塔」から手にとってみてください。

 

 

幽麗塔 1 (ビッグコミックス)
無料試し読み
著者:乃木坂 太郎
出版社:小学館
販売日:2011-11-30

 

 

こちらの記事は、記事提供元のマンガの宇宙を旅するためのWebマガジン「コミスペ!」でも読むことができます。