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歴史好き必読のマンガ『映画 刀剣乱舞』 歴史ミステリーとしての面白さも
映画 刀剣乱舞 (上) (サンデーうぇぶりSSC)
著者:大柿 ロクロウ
出版社:小学館
販売日:2019-01-18
 
4周年を迎えた「刀剣乱舞」というジャンルがあります。
著名な日本刀が刀剣男子に擬人化され、歴史の改変をもくろむ敵と戦う世界。パソコン向けブラウザーゲームから始まり、アニメ、舞台と活躍の場を広げ、とうとう実写映画になりました。
 
そして、その映画のコミカライズがまたすごくよくできています。
まだ刀剣乱舞の世界を知らない方へのいい入門書になっており、歴史好きが刀剣乱舞を楽しむべき理由がよくわかります。
 
 
一大市場となった刀剣乱舞は、いろいろなメディアでそのすごさが説明され、専門家の方がヒットの理由を解説されています。
あえてここで繰り返す必要はないのですが、マンガを中心にエンタメ好きの私がいまから振り返ると、いい意味での間口の広さが、多くの人を惹きつけたのではないかと思います。
 
 

妄想をかき立てる「隙間」の偉大さ

 
そもそも最初のパソコン向けブラウザー版ゲームは「刀剣育成シミュレーションゲーム」。
刀剣男子の数枚のイラストと声優の声はついていたものの、細かな世界観の設定などはありませんでした。目的も「歴史改変をもくろむ敵と戦う」というだけ。敵の狙いや背景もわかりません。刀剣男子を戦場で進めるのも強いバロメーターを持つ刀剣男子を呼び出すのも、さいころをふるといった偶然に左右され、細かな戦略を立てられるものではありませんでした。
 
 
ただその妄想や想像を刺激する隙間の大きさが、結果的にファンをつかんだのだと思います。二次創作含めファンがそれぞれ自分の「刀剣乱舞の世界」を作ることに成功しました。
(もちろんファンの間のぶつかり合いはありますが……)
 
このファンにはゲーム好きもいれば声優好きもキャラクターもの好きも歴史好きも刀剣好きも、多くのバックグランドを持った人がいると思われます。
 
この隙間の大きさは、結果的にそのままメディアミックスのしやすさにもつながっています。
 
コンテンツのメディアミックスで課題になるポイントのひとつは「原作に忠実か、オリジナルを入れるか」というもの。
原作で作品へのイメージを固めた人にとっては、原作に忠実のほうがいいでしょう。でもメディアの特性として原作に忠実にしきれない場合どうするか――悩ましい問題です。
 
その点刀剣乱舞は、原作ともいえる出発点のゲームの設定が少ない分、アニメや舞台、そしてミュージカルへ展開したとき、それぞれのメディアで物語を作ることができました。
なぜなら原作には「歴史改変を止めるために刀剣男子が主のもとに集まり、日々戦い、そして生活する」以上の設定はなかったからです。
 
その結実のひとつが、『映画刀剣乱舞』です。
 
 

「モノ」は見ていた 歴史ミステリー好きに響く物語

 
※以下、ネタばれありです。ご注意を。
 
 
映画版では舞台などで刀剣男子を演じた役者が、ほとんどそのまま登用されました。
そのため「刀剣男子」としての役作りや動きは、それまでの刀剣乱舞の世界を楽しんでいた人たちの期待を崩しません。
 
さらに映画では、「時代劇映画」としての殺陣の美しさ、そして歴史ミステリーの魅力が加わり、既存ファンの思い入れを深めつつ、ファン層を広げることになっていたと思います。脚本があの小林靖子さんだったこともあり、特撮ファンすら引き付けました。
 
映画のネタは、これまでさんざんドラマや映画、小説の題材になってきた織田信長の死。今回の物語では、本能寺で命を落としたはずの信長が、歴史改変主義者の陰謀で命を永らえたなかで、刀剣男子らが歴史を「正しい」方向に直そうとするものです。
 
もちろん刀剣男子のなかには、「薬研藤四郎」や「へし切り長谷部」といった信長と縁の深い刀剣らがいます。
信長と縁の深い刀剣男子らの葛藤、殺陣のすばらしさはもちろん見所なのですが、歴オタとしては「結局、信長の命を奪ったのは誰なのか」という謎に踏み込み、モノの付喪神、刀剣男子を主役にしているからこその「答え」を出していたところに満足しました。
 
ネタばれになりますが「モノは見ていた」です。
人間の側にある、刀などモノは人間の営みを全て見ていて、それは口述や記述といった人間の思惑が入り込む歴史の伝え方よりずっと正確なのです。
まあ、刀剣男子のように人語を解するようになってくれないとわからないのですが。
 
……というすばらしい物語と、役者の方々の動きを見事に2次元の上に再現したのが、このコミカライズ版『映画 刀剣乱舞』(全2巻)です。
キャラクターの表情や動きはもちろんのこと、なんといっても付喪神である刀剣男子らしい、「人間ではない存在による殺陣」が見事に描かれていて映画をみたときの感動がよみがえりました。
描かれたのは『シノビノ』の大柿ロクロウ先生。そりゃ、殺陣の動きも描けないわけがありません。
 
刀剣乱舞はキャラクターや女性ファンが先にフォーカスされたことで、敬遠している人がいるかもしれません。
大柿先生の筆の力で、「キャラクターゲームものでしょう」と刀剣乱舞を敬遠していた人たちが引き付けられることを願ってやみません。
 
 なお、「映画 刀剣乱舞―継承」のBD&DVDは6月中旬発売予定です。マンガを読んで興味を持たれた方はご覧ください!