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テクノロジーがひとの想いをかなえてくれた後に残るもの 『セツナフリック』が描く世界観

「あったらいいな」を実現する 

 

テクノロジーを活用して、これまでひとがやらなければいけないことを代替していく。また、ひとが想う「あったらいいな」を実現していく。 

 

これから先になくなっていく職業のリストが開示されると、二つのことを考える。ひとつは自分の仕事は残るのだろうか。そして、もうひとつは、”そういう仕事”だったら力を発揮できるひとはどうなっていくのか。 

 

さまざまな若者と就労支援というテーマで出会う。そこにはそれほど複雑ではなく、比較的単純、単調な仕事であれば黙々と、そして正確にこなすことで力を発揮できる若者がいる。本人が自分の力を自覚していることも少なくない。 

 

しかし、そのような仕事はテクノロジーを活用することでなくなっていく筆頭の仕事だったりする。では、”そういう仕事”に就くことを希望する若者はどうしたらいいのか。模範解答は、ひとしかできない仕事をすること、そしてそれをいち早く自覚して知識なりスキルなり、人間関係を積み重ねていくことかもしれない。 

 

頭ではわかっていても、目の前にはまだ”そういう仕事”があり、それを一生懸命こなし、充実した生活を過ごす若者を見るとき、テクノロジーが代替する(奪う)仕事の先にる世界はどんなものになるのかを考えざるを得ない。 

 

『セツナフリック』は、テクノロジーを駆使してひとがやっていること、あったらいいなと想うことを実現したとき、そこに残るものは何かを私たちに提示する。 

 

こんな世界はすぐそこにある 

 

私たちは、さまざまなものを数値化、データ化している。一番わかりやすいのがお金であり、いまや現金を活用するシーンも減った。カードやスマホがあれば、そこでデータ化されたお金を支払うことができる。また、ひとの評価の一部も数値化されている。SNSの「いいね」や、そのひとの文章やお店のサービスに点数をつけ、可視化していく。 

 

貯まったものは、信頼や資産となって活用される。いまのところうまくそれができていないのが「運」だ。運を呼び寄せる生活や、運命を変えられる行動という話はここかしこにあるが、テクノロジーはその「運」すらもデータ化して、私たちに付与してくれるかもしれない。 

 

一週間の運が付与され、それをさまざまなシーンで使うことで、自らの運命を主体的に切り開いていけるようになるかもしれない。恋愛で使うか、仕事で使うか、ギャンブルで使うかは自分次第だ。その使い方を間違えれば「不運」が降りかかる。 

 

働き方改革、女性活躍は政府の一丁目一番地だ。働きながら子育てがしやすい社会、シングルペアレントでも子育てと仕事を両立できる社会を目指してさまざまな取り組みがなされていく。現状ではうまくいっているのか疑問なものもあるが、それをテクノロジーを駆使して実現したらどうなるのか。 

 

シングルマザーでもバリバリ働くことができる。子どもの状況は、センサーを活用して健康面や情緒面を逐一伝えてくれる。食事もお風呂も、寝かせつけもプロがやってくれる。食事は自分が作るものよりしっかりと、勉強もきっちり見てくれる。寝かせつけもスムーズで子どもは心身ともに健康だ。 

 

では、それらをプロレベルでこなせない親の存在、価値はどこにあるのか。バリバリ仕事をして稼いで、充実したキャリアと、プロによる子育てを実現することだろうか。働き方改革と女性活躍の実現の先に、あるシングルマザーの女性が見つけたものとは。 

 

介護も日本社会の大きな問題で、テクノロジーの入る余地が大きい。ひとの手とロボットの手で支えていくこと、また、健康寿命の延長や自分自身の一部をテクノロジー化すること。その先に、自分の意思をロボットに移して自分の身体のケアを行うことができる。誰かに「していただく」という心のハードルはなくなり、自分が自分を介護する社会の到来だ。 

 

現実には移せない行動を、アプリに意識を飛ばして疑似体験することもできるようになるかもしれない。あの日、告白どころか話しかけることもできなかった女性に声をかけることができたら。思っていたことは行動にできないが、疑似的にならできるようになるかもしれない。 

 

そんな世界のなかで、ひとは現実と仮想世界を切り分け、それぞれが別の世界であることをしっかり認識して人生を生きていくことができるのだろうか。 

 

私たちは便利で楽しく、そして嫌なこと、つらいことをテクノロジーとの共存によってバランスをとっていきながらも、その先にあるひとらしさ、自分らしさ、というものがどのように展開していくのか想像すらできない。想像できないと不安になる。 

 

本書は、その想像しづらい世界に想像力を持たせる補助線を引いてくれる漫画だ。便利、楽しい世界と自分らしさの狭間で次の世界を描くことを手助けする一冊である。