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少女漫画と思っていたら政治・経済の教科書だった『王のいばら』

 

 

 

疲れがたまると、幸せな気分で前に進む気分になる少女漫画を読むことにしています。

 

そのつもりで『王のいばら』を読み始めたら、硬派な政治・経済の王道を訴える作品でした。

少女漫画が苦手という人にもおススメします。

 

 

いがみ合いをなくすための豊かさ

 

私が作家読みをしている方の一人が、漫画家の戸川 視友さんです。

 

女性が画家になることを許されていなかったルネサンス期に、フィレンツェで画家を目指す少女を描いた『白のフィオレンティーナ』が好きで追いかけ始め、出会ったのが『王のいばら』でした。

 

『王のいばら』の主人公のエピヌは、宗教上の理由で迫害され、森で隠れて住んでいた少女。

偶然出会った若き王に見いだされ、彼の国で育つことになります。

 

当時エピヌは9歳。「少女漫画」ですが、そこは戸川先生。王国の宰相のもとで行政の英才教育を受けることになります。

様々な国の書物が集まる図書館で学び、宰相らを助けて行政官のように働き、10代で内務長官に就任します。

 

「子供が?」と思われるかもしれませんが、そこはファンタジーということでお願いします。年齢をのぞけば、エピヌの発言や行動はファンタジーではなく非常にリアリスティックです。

 

あるエピソードでは、「人々の間のいがみ合いや争い、差別は貧しさのためだ」と断言し、その地域の経済開発を進めます。

 

きっかけは王国内の貧しい地域で起きた魔女裁判。

ほかの地域と比べて経済的に劣っていることを、魔女のせいにしようとした地域の人々。

宰相とともにその地域に向かったエピヌは、「魔女を生み出そうとするのは貧しさと厳しい生活のため」だと見抜き、住民にその地域の経済を拡大することを約束します(これは母親からの教えでもあります)。

 

その後実際、エピヌは任された仕事のなかで必要になった工場の場所を、その貧しい地域の中でも特に厳しい小さな島に決めます。

 

一国の経済格差をなくすための工場建設、人々の教育、それによって差別意識やいがみ合いをなくす――こうしたことは、別に物語の中で劇的におきるだけでなく、現実世界でもそうだなと思いました。

 

 

戦争をするのもオカネがかかる

 

もうひとつは役割分担。王のために尽くしたいエピヌは、戦争にいく王についていこうとします。

それをなだめ、止める王は「人には役割がある」といい、幼いエピヌを戦場に連れて行かず内政に集中させます。

「戦争はお金がかかるからしっかりかせげ」とのこと。

 

多くの作品で戦いや戦争が描かれてきたなか、なかなか触れられないのがこの戦いの準備に必要なお金のこと。

もちろん『王のいばら』でも具体的な金額が出てくるわけではないですが、安心して戦争を続けるためにいかに経済的に国を富ませ、国内の反乱の芽をなくすことが必要かをきちんと言葉にしているところが新鮮でした。

 

とはいえ少女漫画です。9歳で王のもとに来たエピヌは、15歳で王と結婚しますので、よく考えると源氏物語のようにもみえます。

 

国のために家族を持たないことを決めた王の心をとかし、逆プロポーズをするエピヌ(あらゆる女性が強く、意思を持って行動しているのも戸川先生の作品の特徴です)。

 

いろいろなハードルを越えて結ばれる2人は立派な少女漫画の物語なのですが、どうも国造りと外交の戦略立案の印象が強すぎて、私は2~3回読み返して、やっと恋愛面に浸ることができました。

 

なので、「少女漫画はあわない」と敬遠している方にこそ読んでいただきたい一作です。

 

本編は全17巻で完結しており、王の側近らの物語を描いた外伝は全12巻。

政治・経済を考える作品の長さとしてはちょうどいいのではないでしょうか。