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趣味に生き趣味に生かされている大人たちの戦いの記録『トクサツガガガ』

 

 

 「カミングアウト」ということばは、最近ではよくセクシャルマイノリティの人が自分の性などを公表するときに使われています。しかし、本来それのみに留まらず、いままで言ってこなかった自分のことを公表したらそれは「カミングアウト」なのではないでしょうか。

 

 

 私がそんなことを考えるに至ったのは、今年実写ドラマ化がスマッシュヒットを記録した『トクサツガガガ』を読んだせいでした。

 

 

『トクサツガガガ』とは

 

26歳商社勤務OLの仲村叶(なかむらかの)は特撮ヒーローをこよなく愛する特撮オタク、いわゆる「特オタ」。しかし、会社ではそのことをひた隠しにしています。

 

そんな彼女が人知れずオタ活に励み、オタク仲間を探し出し、生きる糧と生きる場所を獲得していく、そんなひとりの女オタクの汗と涙の「推し事」マンガ。それが『トクサツガガガ』です。

 

 

私自身小学生くらいまではスーパー戦隊シリーズを毎週見ていましたが、「特オタ」と言うほどではないし、最近はもうほとんど見ていません。

 

ただ、いまでもマンガやアニメが好きで、舞台にもよく行くオタクの一人である私にとって、仲村叶はちょっとした分身のような感じがします。

 

 

それは隠れキリシタンのように

 

叶が最も恐れるのは職場での「オタバレ」(オタクであることがバレること)ですが、一方で叶は通勤電車で一緒になる女性のことが気になり始めます。

 

その女性、吉田さんは、叶が大好きなその年の特撮番組「ジュウショウワン」の主要キャラクターであるトライガーのキーホルダーをつけていました。

 

 

「オタバレ」はしたくないけど、オタク相手には「自分が同志であること」をどうにかして伝えてあわよくば仲良くなりたい……そんな隠れキリシタンのような裏腹な気持ちのなか、叶は外でできるギリギりのラインを模索し、吉田さんと仲良くなることに成功します。

 

 

ほんとは大声で「好きだ」って言いたい

 

「好きなら堂々としてればいいのに。」

「自分でも恥ずかしいモノ好きだって思ってるから隠すんでしょー。」

「だったらやめりゃいーじゃん!」

 

作中で叶の同僚がなんの気なしに言ったセリフです。

叶に向けてではないのですが、叶はこれに対して心の中で猛反論します。私はそれに大きく頷いてしまいました。

 

 

自分の趣味への相手のスタンスがわからなくて、否定される可能性すらあるのに堂々と公言できる人はなかなかいないんじゃないでしょうか。

 

 

自分の「好き」を否定されるのはとても辛いことです

「好き」という価値観自体を否定されるわけですから、もう自分自身を否定されたと言ってもいいくらいです。

 

特に叶は母親から、特撮が好きであることを全く理解されませんでした。女の子らしいかわいいものを持つことが「いいこと」だ、男の子用のものを使うのは「変」だ、と言われ続けて叶は育ちました。

そして大人になった今、「いい年してそんなものを見て」が加わります。

 

 

性別も、年齢も、好きでいるのに関係はないのですが、周りもそう思ってくれるとは限りません。自分が好きなものを否定されるのは辛いですが、相手が自分の好きなものを嫌いになる理由もそれなりにはあるはずで、それを否定するのもよくないのかな、と叶の母親を見ていると思わされました。

 

 

それでも私たちはオタクを辞められない

 

しかし、だからといってそれがその趣味を辞める理由には全くならないですし、第一それでやめられる程度のものであればきっとみんないままでに辞められていることでしょう。

 

 

この作品のドラマ版の主題歌が、ゴールデンボンバーが歌う「ガガガガガガガ」という曲なのですが、この2番には、視聴者を中心に「心に刺さる」と話題になっている歌詞があります。

 

 

昨日疲れ果てて死にそうなとき助けてくれたのは

誰にも理解されない御趣味で

でも全てが愛しい

ねぇ奪わないで、怒らないで、仕事は休んでないから

好きって言っていいかい?

 

 

インスタ映えが好きな人はパンケーキに朝から何十分も並ぶかもしれないけど、特オタはその時間に特撮番組を見ていたいし、アイドルオタクはその代金分でブロマイドを買い足したい。

 

お互いのなかでの優先順位が違うからきっと理解はできなません。でもそこには優劣はなくて、どっちもその人が明日生きるために必要なことなんだと思います。

 

 

誰だって日曜の夜は憂鬱だし、ゴールデンウィークは終わってほしくない。だけどそんなときにえいっと背中を押してくれるのが、特撮の、趣味の、力なんだと思います。

 

 

「誰にも理解されない御趣味」を、たとえ仲間が少なくても楽しんでいられる自分の世界を守るため、今日も全国の仲村叶たちは頑張っています。『トクサツガガガ』は、そんなオタクたちに元気と希望と笑いを提供してくれるはずです。

 

 

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