TOP > マンガ新聞レビュー部 > 片想いでいいと君は強がることができるか——『また、片想う。』

※単行本1巻のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。
恋する者同士でも
その気持ちは
イコールじゃないんだ
お互い片想いを
してるような
もんなんだよ
青いな少年、その考えは僕が20年くらい前に通った道だ。
なーんて、ひねくれ者であるところの僕はつい茶化したくなってしまうピュアッピュアな恋愛論理だけど、『また、片想う』で大真面目に野方くんが語ったこの言葉が、この世の真理めいて聞こえてしまう瞬間があるのだ。
だから たとえ
清瀬が僕のことを
好きじゃなくても
いいんだ
僕が
清瀬を好きだから
この時、読者である僕も、本作のヒロインたる清瀬も、彼になにが起こるのか微塵も予期していなかった。
躱し続けた「好き」の二文字
清瀬のことが
好きだ
清瀬詩帆が野方司から初めて告白されたのは、小学生の頃だった。
その返事は有耶無耶に流れ、野方くんの「好き」は、中学生、高校生と彼らが進学しても続いていた。
野方くんのは
本気だと思えませんよーだ
いつものように野方くんが口にした「好き」に、清瀬はそう嘯いた。
野方くんと中学からの友人の金井元明、いつもの三人で過ごす毎日を彼女は壊したくなかった。
元明は名前で呼べるけど、野方くんは名字で呼び続けている清瀬、好意の方角は明らかなんですけどね。
付き合っても「好き」と言えない
異変は清瀬が後輩に告白されたことから。
断ったものの、初めて真面目な告白をされたことで清瀬は野方くんを今更ながら意識して——「今度は僕の返事もしてくれない?」と彼に真正面から言い募られる。
清瀬が好きだ
僕と
付き合ってください
…………はぃぃ…
かくして、ふたりは付き合うことになりました。
下校で手を繋ぐことに戸惑う、「遊びに行く」は「デート」に代わり着る服を悩む。
そんな清瀬の初々しいかわいさにニヤニヤが止まりませんが、今まで三人で過ごしていた時間はふたりきりになってしまう。
「付き合う」ことで世界は変わり、新しい胸の高鳴りがもたらされる一方で、居心地の良かった日常は喪われる。
予期し得た変化はいざ直面すると目まぐるしくて——まだ野方くんに「好き」と言葉を伝えることができていなかった清瀬の下に、野方くんの訃報が届くのでした。
死因は交通事故。
さて、清瀬は何処から何を後悔すればいいのか——。
言えなかった「好き」の行方
『また、片想う。』の本番はここからと言えるかもしれません。
野方くんの死を受けて後悔の底にいた清瀬がある朝目覚めると、世界は本当に変わっていました。
その世界線には死んだはずの野方くんが生きていて———元の世界で清瀬がいた場所には別の少女・秋津愛実がいたのでした。
好きだった、けれど別人である野方司を、そしてかつての「自分自身」に位置する秋津愛実を、清瀬は見つめることになります。
この世界の野方くんは清瀬との記憶は無い、この地獄のように無意味な「やり直し」を前に、清瀬ができることはあるのか——
1巻で描かれた、眩しいくらいの初々しさを湛えていた清瀬と野方くんが付き合う世界。
その記憶を読者である僕たちも共有しているからこそ、2巻から描かれる別世界の野方と秋津が眩しいくらいに初々しく好意を深め合っていく反復を、平静に見ることができません。
その残酷さを経験するだけでもこのマンガのおもしろさがあると思うのですが、清瀬の胸に去来するものは絶望と後悔だけではありません……全3巻の結末で、それを見届けてください。
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