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物語を終わらせるのは誰か?『トガリ』という作品の執念と決着

『トガリ』という作品がありました。2000年から2002年まで少年サンデーで連載された少年漫画です。(単行本はサンデーコミックスで全8巻)

 

著者は夏目義徳。

 

“悪の力で悪を倒す”主人公・統兵衛

 

今から300年前、江戸時代に生きた天涯孤独な主人公・統兵衛は極悪非道の人斬りだった。死後、地獄に落ちて300年たった今も反省せずに脱獄することばかり考えていた。そんなある日、地獄の首魁・エマに「咎狩(トガリ)」という罪が実体化した“咎(とが)”を集めることが出来る不思議な木刀を授けられ命じられる。それは現世に行き108の罪を108日以内に集めること。現世にいる間は自由の身になるが統兵衛自身が罪を犯そうとすると首が落ちて死ぬこととなる。こうして悪の力で悪を浄化する戦いが始まったのである。

 

あらすじを要約するとこんな感じです。

 

“悪の力で悪を倒す”なんて部分が中二心を揺さぶり実にグッとくる作品です。もちろん現世にも“咎(とが)”の力に目覚めてその能力で自発的に人々を支配しようとする宿敵も現れますし、それに加担する“地獄側”の人間も登場して複雑な人間ドラマとして展開していきます。

 

もちろん一番の見どころは何といっても主人公の統兵衛が現世の人間たちの心に触れて少しずつ人間らしさを取り戻していくところです。江戸時代の不幸な出生から罪を犯し、また同時にそうしなければ生きられなかった時代、まるで純粋な邪鬼のようだった統兵衛が少しずつ人間的なことや社会のことを学んで心も顔も暖かくなっていくところが本当に読んでいて嬉しかった。

 

しかし、この作品は打ち切りになりました。

 

物語の結末は語られることなく無情にも閉じられました。

 

続編開始、そして見事な“完結”

ショックと悲しみに沈んでから7年後、なんと『咎狩 白』という続編が連載開始されました。(2009年から2011年連載、雑誌は『コミックフラッパー』メディアファクトリー)

 

『咎狩 白』では108日の期限のうち107日が経過していて文字通り“最後の一日”を描くまさにクライマックスのみで構成されたものでした。しかもそれだけでもなく地獄と天界の住人の確執・陰謀、そしてかつての事件の真相、統兵衛自身の心の決着。全てが完璧に出そろった状態でそれは見事に“完結”されました。

 

この『咎狩 白』は単行本全3巻。(同時にメディアファクトリーからかつての『トガリ』も新装版として全4巻にまとめられて発行されました)

 

今回のこのレビュー記事で私自身が最も伝えたいことは何か?

 

それは“物語を完結させるのは誰か?”ということ。漫画連載とは人気商売であり、そこには大ヒット長寿連載作品もあればその逆の打ち切り作品だってある、それ自体は仕方がない、現実は現実である。けどね、たくさんの思いと期待の中で始まった物語には発表後は必ず読者が存在する。それが多かろうが少なかろうが存在する。もちろんそれが少なかったから打ち切りになったのだろうけど。そうして“閉じられた世界”は二度と開かれることは無い。

 

物語を始めたのは作者、しかしそれを打ち切りに追い込んでしまうのは読者(の少なさ)、またしかしそれでもなおその物語の扉を再び開くのはやはり作者なんだと私は思います。

 

少年サンデーで大好きだった『トガリ』という作品が道半ばで終わってしまった時の悲しみと喪失感を、作者自ら『咎狩 白』として復活させて、足掛け11年かけて『咎狩(トガリ)』という物語を完結させてくれた夏目義徳という漫画家に私は敬意を表します。

 

そして間違いなく『咎狩(トガリ)』は面白い。

 

トガリ 1~4 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
著者:夏目 義徳
出版社:メディアファクトリー
販売日:2010-10-23

 

咎狩 白 1~3 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
著者:夏目 義徳
出版社:メディアファクトリー


【おまけ】
実はこの『咎狩 白』の完結3巻を読み終えて上記のような思いを(2011年当時)私自身のツイッターに綴ってからおよそ2年後のある日、なんと突然、夏目義徳先生ご自身からリプライをいただきました。

そこには“松山さんのあの言葉はどんなつらいことも忘れられる最高の賛辞でした。こういったことを言ってくれる読者がいることが何よりの支えです。本当に『トガリ』という作品を描いて完結させることが出来て良かったです”というメッセージが。

逆にこちらが感動するくらいでしたが、描き手と読み手がこうしてつながる時代だからこそみんなもっともっと「面白い!」という感想やツイートを発信していきましょう。そのためのマンガ新聞でもあるわけですが。(今現在でも夏目義徳先生とは懇意にさせていただいておりまして、たまにお酒を飲んだりする仲になりました)