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特別養子縁組、もうひとつの家族の姿を描く『かぞくを編む』
かぞくを編む(1) (BE LOVE KC)
著者:慎 結
出版社:講談社
販売日:2019-04-12


さまざまな事情により、子どもを授かることが難しいひとたちがいます。パートナーとの関係も良好で、自分たちの子どもを産み育てていくことを願いながらも。

 

その一方で、親から満足な食事も与えられず、暴力を振るわれ、その短い人生を閉じてしまう小さな命があります。また、虐待などでなくても、親の病気や死、経済的な事情で、家庭を失う子どもたちもいます。

 

社会的養護という言葉を聞いたことがあるでしょうか。厚生労働省では、以下のように言葉を説明しています。

 

社会的養護とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会医的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことです。

社会的養護は、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子どもの育む」を理念として行われています。

日本では児童養護施設など、施設型で子どもたちを支えていくことが多いのですが、親権を持たずに子どもを養育する里親制度の推進もしています。私も里親家庭で育った子どもで進学希望者へ給付型奨学金の審査委員もさせていただいております。

 

その作文には、実の両親と離れたつらい理由、本当の子どものように育ててくれた里親への感謝の気持ち、そして将来への不安と希望が綴られています。毎回涙が出てしまうほどで、10代の子どもたちが、自らの力だけで生きていかなければならないほど、この国の社会的養護における脆弱性を突き付けられます。

 

その社会的養護のひとつに養子縁組があります。養子縁組には、子どもの実親との関係を持ちながら、養親との関係を持つ「普通養子縁組」と、生みの親との関係を焼失し、育ての親と新しい親子関係を作る「特別養子縁組」があります。

 

特別養子縁組について認定NPO法人フローレンス「赤ちゃん縁組」で説明されています。

 

特別養子縁組は、子どもが生涯にわたり、安定した家庭で特定の大人の愛情に包まれて育つために作られた公的な制度です。

何らかの事情で生みの親が育てあることができない子どもを、育ての親に託し、子どもと育ての親は家庭裁判所の審判によって戸籍上も実の親子となることができます。

 

どのような親子関係であっても、子どもの最善の利益になることを願うばかりですが、特別養子縁組は、生みの親ではなくても、生みの親にはなれなくても、法的に親子として家族として子どもを育てて行きたいひとたちにとっての希望です。

 

『かぞくを編む』は、この特別養子縁組という新しい家族の形を私たちに伝えてくれる一冊です。

 

不妊治療や体外受精をしても、子どもを授からない夫婦はたくさんいます。また、授かっても流産という悲しい結果になってしまうこともあります。子どもを持たずに幸せな夫婦生活を送るひとたちもいるなか、昨今の虐待などのニュースを見て、「わたしにちょうだいよ!」と思わざるを得ない心境になることもあるでしょう。

 

まさに本書のエピソードは、そんな夫婦の話から始まります。ただ、特別養子縁組として子どもを迎えたいと思っても、一般的にどうしたらいいのか、そのプロセスを具体的に知るひとは多くありません。

 

子どもの最善の利益を考え、子どもと養親のマッチングとサポートをする、あっせん機関「ひだまりの子」であり、そこで子どもと養親の間をつなぐ役割を果たす主人公、須田ひよりと、新しい家族を編んでいく夫婦の葛藤、涙、笑顔を描いていく『かぞくを編む』は、特別養子縁組を深く理解する指南書となります。

 

特別養子縁組が成立するまでもたくさんの壁がありますが、実際に新しい家族が法的に認められたとしても、そこから始まる子育ての葛藤は、一般的な家庭と同じ、またはそれ以上のものがあります。子育ては誰であってもうまくいくことばかりではなく、子どもは思い通りにいかないものです(私も子どもが四人います)。

 

また、夫婦のすれ違い、どちらか一方への子育て負担、孤独による関係性の悪化も少なからず起こります。祖父母や親族の支えがときに煩わしくなることもあれば、一番つらいときに、何気なく投げかけられた一言に、怒りを通り越して絶望することもあります。

 

それらはどんな子育て家庭にもあるものですが、特別養子縁組として迎え入れた子どもと夫婦による新しい家庭には、一般家庭とは異なるつらさ、難しさがあることを本書は教えてくれます。

 

私自身、社会的養護の分野に近いところでも仕事をしていることもありますが、これから先、里親や養子縁組によって、多くの子どもたちに最善の利益を提供できる社会になっていくべきだと考えます。

 

それが実現したとき、特別養子縁組家庭ではない私たちにも役割があります。それは、友人や知人から、特別養子縁組で子どもを授かったことや、自分たちの子ども世代が、友人から生みの親と育ての親が違うことを伝えられることもあります。

 

そのとき、私たち自身が社会的養護に無知や無関心であれば、そのような友人の言葉に対して何も反応できないか、傷つけてしまう言葉を投げかけてしまう可能性があります。だからこそ、私は多くのひとたちに『かぞくを編む』を読んでいただきたいです。

 

子どもの最善の利益を願い、実現していくためには、まさに社会全体で子どもたちを育てていかなければなりません。そんなとき、多様な家族の形があることを知っておくことこそが、社会で子どもを育てて行く社会の実現の第一歩だからです。

 

かぞくを編む(1) (BE LOVE KC)
著者:慎 結
出版社:講談社
販売日:2019-04-12