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カルトでもいい、たくましく育ってほしい……? 『カルト村で生まれました。』
カルト村で生まれました。
著者:高田 かや
出版社:文藝春秋

 

 

作者で主人公である高田かやさんは”カルト村”出身で、19歳までそこで生活していた。
ご主人のふさおさんの「カルトの話、一般の人にはおもしろい思うよ」という一言をきっかけに、自身の体験を漫画にしたとのことだ。

 

 

 

©︎高田かや/文藝春秋

 

 

 

ただ、”カルト”とはいえ、やたらエロい教祖やら、拉致監禁、マインドコントロール、犯罪などの要素満載のような作品では決してない。

実際は農業を基盤としたコミューン(生活共同体)であり、この団体は今に至るまで、日本各地に現存しているようだ。

 

 

©︎高田かや/文藝春秋

 

 

そこでは子供たちは親と離れ、親は親同士で別の村で集団生活をする。子供たちは学業以外に仕事を与えられ、家畜の世話や農作物の収穫、トイレ掃除等に勤しむ。

お金はおろか、基本的に自分の所有物も何もなく、欲しいと思ったものを与えられることもない。”世話係”と呼ばれる大人による理不尽な恐怖支配(体罰あり)のもと、共産主義的な生活を送る……。

 

……と書くと、なんかすごく恐ろしいところのような気がするが、子供たちは普通に小学校に通っているし、世話係といっても普通のおばちゃんだ。

 

結構子供たちがしたたかで、たくましく生きて行く姿が頼もしい。作品全体を通じて特に悲壮感はないので、全編を通じて明るい気持ちで読み進める作品だ(まぁ、一箇所、ぞっとするところはあるが)。

 

おもしろいのが、我々の今の生活の軸足となっている概念(私有財産お金とか)がない社会に生まれ落ちた子供がどのように適応していくのか、についてのケーススタディになっていることだ。

 

資本主義な世の中をエンジョイしている我々からすれば、共産主義社会なんてサービスエリアにすら寄りたくねえぜ、と思ってしまうが、当時の高田さんを含め、もともとそんな社会しか知らない子供たちは、他を知らないぶん葛藤を抱えながらも適応していくのだ。

 

それにしても子供というのは、ないならないなりに、与えられないなら与えられないなりに、いろんな楽しみを見つけていくものだ。草を食べ、花を吸い、時に大人を騙して遊んだりと、子供の強さと才能をまざまざと見せつけられる。

 

村のなかの集団生活を通じて、楽しかったこと、苦しかったこと、そのとき高田さんが何を感じ、思ったのかの心理が細かく描かれており、それが本作の一番の見どころとなっている

 

セリフも含め、すべて紙とペンのみで描いていて、文字が整ってきれいなのも印象的だ。

 

 

©︎高田かや/文藝春秋
(自動販売機のハッキングを企む、たくましい村の子たち)

 

 

さらに、このコミューンでの生活も悪くないんじゃないかと思わせられるのが、食生活の豊かさだ。

日本各地にある共同体の村で生産される無添加・有機栽培の食材が振舞われ、ロハスな生活が営まれている。

 

一日昼・夕のニ食なのは辛そうだが、少なくとも私の独身時代よりははるかに健康的なもの食べているなと思った。野菜には芋虫が這い、卵の黄身がびよーんと、めっちゃ伸びるイメージである。

 

 

 

©︎高田かや/文藝春秋

 

 

その後19歳で”村”を出て、既に10年以上たった高田さんであるが、今は東京都内でご主人とお住まいらしい。

いろいろその時からのトラウマもなくはないようだが、カルト村の生活のおかげで、四季を感じる感性が育ち、旬の食材をたしなみ、様々な調味料も自作してしまうほどの腕前らしい。

牛、豚、鳥、それぞれの家畜の糞を嗅ぎわける特殊能力も持っているとのことだ。

 

最初の1ページから最後の1ページまで本当におもしろい! 本当におススメ!

 

 

最後に、本作にそって”カルト村”の掟を紹介しよう。

 

①親と離れて集団で暮らす
子供と大人は分けられて別々の村で暮らす。年に数回だけ親に会えるが、帰る日には当然号泣。一番甘えたい時に親がいないので、自律神経が乱れ、小学校卒業までおねしょが治らなかったとのこと。

これは結構残酷だ……。

 

 

©︎高田かや/文藝春秋

 

 

②食事は1日2食、昼と夜のみ
朝食はなし。昼は腹八分目、夜は十二分目という村の方針らしいが、子供たちは平日昼は学校の給食なので、掟そっちのけで貪り食う。

朝食抜いているので、運動会の練習で村の子がバタバタ倒れるという話が凄まじい。常に空腹なので、自然の食べられる草花を選別したり、拾い食いするセンスが身に着く。

 

 

©︎高田かや/文藝春秋

 

 

③体罰
平手打ち、炎天下で立たされる、暗いところに閉じ込められる等、様々な体罰が用いられたようだ。

高田さんは「少数の大人で多数の子供を管理するには必要な部分もあったかも」と一定の理解をしつつも、自分には体罰は有効でなかったと自己分析している。

 

 

©︎高田かや/文藝春秋

 

 

④共有
村が目指すのは所有がない社会

ということで、すべてのものは基本的に共有。しかし、少しずつ自分のものを持つことが認められる。普通、物心つく前に目覚める所有欲が、それなりに自我が芽生えてから湧いてくることになるため、その心の動きの詳細が言語化されていておもしろい。モノを初めて盗んだ時の心理とかが細かく描かれている。

 

 

©︎高田かや/文藝春秋

 

 

⑤お小遣いがない
お小遣いがないので、小学生になってもお金を見たことがないため、10円拾っただけでも大騒ぎ。

お金はすごいもの! という思い込みがあって、小銭をちょろまかしてうまく逃げ通せかけたのに、良心の呵責に押しつぶされそうになる、という可愛い展開に……。

 

 

©︎高田かや/文藝春秋

 

 

他にもおもしろいエピソードはたくさんあるが、特にすごかったのは、平成なのにDDT!!!
DDTとはシラミの殺虫剤の白い粉だ。山の中での集団生活ということでシラミの温床になったとのこと。今はほとんど見なくなった、というか私も見たことがないDDTで消毒、そして男子は丸刈り、女子はベリーショートとノスタルジック溢れるエピソードも見逃せない。

 

これらエピソードは本当に一部中の一部だ。是非、本作全体を楽しんでほしい!!!

 

 

(レビュアー:山田 浩司)

 

 

カルト村で生まれました。
著者:高田 かや
出版社:文藝春秋