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医師が読む『毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』 こんなやらかしてていいの⁉いや、いいんだ!
毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で
著者:沖田 ×華
出版社:ぶんか社
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作者は、自身がアスペルガー症候群(AS)、学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)などの発達障害を持っている沖田×華さん。

 

字が汚い、距離感がわからずぶつかってしまう、3人以上だと誰が何の話をしているのか分からなくなる、人の言っていることを勘違いしてしまう……。
そんな一見些細にみえる作者の「クセ」の紹介からこの漫画が始まります。

 

©沖田×華/ぶんか社

 

序盤は作者の看護師時代。初勤務で医者の先生に「さっさと帰れ!!」と言われて帰宅しようとしてしまった、社交辞令や本音と建前を理解できないことが多いなど、アスペルガー症候群の方なら「あるある」となってしまうエピソードが満載です。

 

特にアスペルガー症候群の人達のオフ会の様子など、リアル~な感じが伝わってきます。あ、僕もちょっとこういう経験あるわ……。

©沖田×華/ぶんか社

中にはストーカーになってしまった人も。う~~ん、大丈夫なのか、これ。お、よく考えると、僕の周りにも似た人がいるぞ。

©沖田×華/ぶんか社

 

 

実は、2013年以降はアスペルガー症候群という名前は使っていません。自閉症から高機能自閉症(IQが保たれている自閉症)、そして正常な人間まで、症状が連続的(スペクトラム状)に分布しているので、それらを包括的に「自閉症スペクトラム障害」と言っています。
アスペルガー症候群はその一部です。このレビューでは、便宜上アスペルガー症候群という言葉を使わせてくださいね。

 

この漫画の冒頭を読んだとき、私の脳裏によぎった不安。それは、この作品が「変な人動物園」としての役割しか持っていないのではないかという懸念でした。
問題行動を起こす人間を監禁して公衆の目に曝していた、江戸時代の見世物小屋のように。殊に、扱っている病気がcommon disease(よく見られる疾患)ですから、読者の差別意識を助長してしまうのではないかという疑問はありました。

 

しかしこの漫画は一貫して、「こんな人もいるよ~あんな人もいるよ~」といった非常にゆるい人物紹介・エピソードの紹介が続いています。登場してくる人物に対する批評も批判もない。作者の力強い主張もない。これが逆に良かった。

 

私は、社会に生きる各人が「こういう人もいるのね」と、アスペルガー症候群の人々とのコミュニケーションに”慣れ”ることは非常に大事だと思っています。
世間には自分と違う人々がたくさんいます。約70億人の世界人口から考えたら、平均値な人もいれば外れ値な人もいるでしょう。マイノリティと呼ばれる人達を援助することも重要ですが、純粋に彼らとコミュニケーションすることに”慣れる”ことも大きな精神的進歩になるのではないでしょうか。
映画『スターウォーズ』に黒人俳優のジョン・ボイエガが起用され、一部の心ないファンから人種差別的なバッシングを受けた時、彼が「慣れてくれ」と批判を一蹴したことを思い出します。黒人はそんなにマイノリティではないですけどね。アスペルガーも。

 

作者の沖田さんは、包容力と優しさのある描き方で、アスペルガー症候群の日常をゆるゆると描き出しています。表紙の作者も失敗をやらかしていますが、どこか楽しそう。作中では、アスペルガーの疑いがあるだけで、実際にそうであるかどうか分からない人も登場します。
でも、それでいいと思います。
作者にとっては、彼女の出会った人が厳密にアスペルガー症候群かそうでないかは、あまり大きな関心事ではないのでしょう。そういう人達、みんなまとめて”慣れ”ちゃえ。

 

この漫画は、「変な人動物園」への入場券ではありません。
作者の沖田さんによる、世界人口70億人70億1脚という催し物への招待状なのです。

 

全員が参加者で、全員がお互い協力し、時には足を引っ張り合い、それでも前に進んでいく。
大丈夫。一人で風を切って走るのよりも大変かもしれないけれど、きっとすぐに”慣れ”る。

 

 

レビュアー:医療美術部

毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で
著者:沖田 ×華
出版社:ぶんか社
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