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『カイジ』の名場面「焼き土下座」用の鉄板をも焼肉に使うとは!! 苦悩する中間管理職『中間管理録トネガワ』

「どうすれば上司のご機嫌を伺えるかが分からない」
「部下との距離感の掴み方が分からない」
「部下の信頼を勝ち取る方法を教えてほしい」

 

よほどのベンチャーやフラットな組織でないかぎり、こうした悩みは日本企業の中間管理職が必ずと言っていいほど通る問題である。読者の中でも、思わず65536回くらいうなずいてしまう人もいるのではないだろうか。

 

そんな悩める日本の中間管理職に捧げるマンガがある。『中間管理録トネガワ』だ。

 

 

 

 

この表紙を見てピンとくる人もいるだろうが、皆さんご存知『カイジ』シリーズの悪魔的スピンオフとしてセンセーショナルなデビューを果たしたこの作品。連載初期の頃からネットをざわざわさせていたのを目にした人も少なくないはずだ。

 

 

『カイジ』の世界観がまるごと移植されたスピンオフ

 

マンガの舞台は、カイジや社会のクズどもが集まる悪魔的ゲームが行われる以前の、帝愛グループ内。幹部である利根川が、部下である11人の黒服たちとともに会長・兵藤のご機嫌を取るために四苦八苦する様子が描かれている。

 

すでに「『カイジ』のスピンオフ『中間管理録トネガワ(以下、トネガワ)』が面白すぎる件」みたいなタイトルがまとめサイトに上がっているように、まずもってこの作品は単純におもしろい。「『カイジ』の世界観をまるごと移植させたスピンオフとしてのおもしろさ」と、「日本企業の中間管理職あるある」の2つが奏でるハーモニーが、本作品を悪魔的におもしろくさせている。

 

まず、「『カイジ』の世界観をまるごと移植させたスピンオフとしてのおもしろさ」について。これは、作画を担当している橋本智広さん、三好智樹さんが、本家『カイジ』のアシスタントをされていたこともあり、絵がそのまんま『カイジ』なのである。

 

定番の「ざわ…ざわ…」からカイジ最大の敵・帝愛グループの兵藤和尊、トネガワ、部下の黒服たちの姿形まで、すべてがあの『カイジ』の世界観で描かれている。よくあるスピンオフの絵のテイストが違った「コレジャナイ感」が一切ないのがヒットの大きな要因だろう。

 

 

涙なしには見られない中間管理職の苦悩と挫折あるある

 

次に、「日本企業の中間管理職あるある」。今回のレビューでは特にここに注目したい。

 

主人公は、『カイジ』初期シリーズでカイジの好敵手を演じた利根川。「金は命より重い……」といった名言を残し、カイジを追い込みながら惜しくも敗れ去ってしまったあのかっこいい利根川は、この作品にはいない。

 

 

©福本伸行・萩原天晴・三好智樹・橋本智広/講談社
会長の気まぐれで週末出勤が決まった利根川。『カイジ』シリーズでは悪魔のような利根川も人の子、ゴルフくらい行きたいものだ。

 

 

ここで利根川に、多くの中間管理職がぶつかるであろう組織マネジメントの壁が立ちはだかる。まずは、組織マネジメント最初の一歩、「部下を理解する」だ。そして、初日の会議で部下たちの自己紹介が始まる……。

 

 

©福本伸行・萩原天晴・三好智樹・橋本智広/講談社
黒服・グラサンという無個性な部下たちのことをひとりずつ理解しようと自己紹介をさせる利根川。

 

 

作中では途中まで自己紹介が行われるが、覚えにくい名前、趣味が全員ボウリングという無個性さに利根川がしびれを切らす。失敗に終わったのだ。

 

 

©福本伸行・萩原天晴・三好智樹・橋本智広/講談社
部下の前で取り乱し、激昂してしまった利根川。信頼関係崩壊のプロローグ。

 

 

続いての壁は、会議中の発言を促す「ファシリテーション力」。ここで利根川は、前日の失敗を取り返すためにも開口一番この会議のゴールを指し示す。

 

 

©福本伸行・萩原天晴・三好智樹・橋本智広/講談社
モチベーションマネジメントは、組織を活発にする潤滑油。それが、非情の帝愛グループとて同じこと。

 

 

これで会議室の空気は一変。皆が「出世」という分かりやすい目的を共有し、前に進む準備ができたのだ。すかさず利根川は次の一手に出る。「褒める」だ。

 

 

©福本伸行・萩原天晴・三好智樹・橋本智広/講談社
ブレストは雰囲気が大切。誰でも発言していい空気は、「褒める」ことで醸成される。

 

 

ここで名誉挽回。部下からの評価もうなぎ登りに上昇していく。しかし、喜びもつかの間、会議室のまさかの会長がやってきて空気は一変する……そこで利根川が取った行動とは?!(続きはコミックスで)

 

 

トネガワのマネジメント論: 部下の信頼を回復するにはBBQ

 

他にも、「あぁ〜やったことある」もしくは「やってる人見たことある」という中間管理職あるあるのオンパレード。

 

 

©福本伸行・萩原天晴・三好智樹・橋本智広/講談社
利根川が手に持つ『必殺マネジメント術』の著者、瀬戸・K・芳秋はアシスタントさんの名前から取ったらしい。

 

 

例えば、利根川は部下を引き連れてBBQ旅行を行う。

 

 

©福本伸行・萩原天晴・三好智樹・橋本智広/講談社
そのBBQに使われたのは、あの「焼き土下座」用の鉄板だった!!

 

 

さらに、部下が自らのアイデアを持ち込みプレゼンを受ける羽目に。その部下の努力を水の泡にするのも、報われるものにするのも、管理職のさじ加減。利根川はどんな行動に出るのか……。

 

 

©福本伸行・萩原天晴・三好智樹・橋本智広/講談社
自分の意見を否定された矢先、パワポ資料を使った完璧な提案を受けた利根川の心中は穏やかではない。

 

 

こうした部下とのコミュニケーションや、会長(上司)に対する態度など、普通にあるある過ぎて世のサラリーマンはみんな笑えるんじゃないかと思うくらいの完成度がある。こんなに悲哀に満ちた利根川は、本家『カイジ』では絶対に見られない。たとえ悪役であろうと同情してしまうのが中間管理職というポジションなのだと、改めて感じさせられた。

 

告白すると、僕は『カイジ』を最初見た時に、「これはギャグマンガなのか?」と思いながら読んでいた。だから、どちらかというと、『カイジ』シリーズよりも『トネガワ』のほうがすごくしっくりきた。もっと言うと、『トネガワ』を読んでから『カイジ』を読めば、登場人物の苦労が見え隠れする分、おもしろさの厚みは格段に増すだろう。

特に、「『カイジ』の絵が苦手」といって敬遠してきた読まず嫌いな方には、『トネガワ』から読み始めるとハードルも下がって良いかもしれない。めちゃくちゃ売れているそうだ。

 

<レビュアー:小禄 卓也>

 
中間管理録トネガワ(8) (ヤンマガKCスペシャル)
著者:福本 伸行
出版社:講談社
販売日:2019-02-13