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TOP > マンガ新聞レビュー部 > トキメキの中に光る社会派描写『ヤンキー君と白杖ガール』どんな人も何かの助けが必要

マンガのすごさは、社会的な問題を描きながらその難しさやしんどさを中和する要素を自由に入れられること。
その奇跡のミックスが、うおやま先生の『ヤンキー君と白杖ガール』では実現されていました。
どんな人でも、誰かや何かの手助けが必要だというのがしみじみ分かります。
何かの助けは誰もが必要
この作品はタイトル通り、ヤンキーの少年と弱視の少女、ユキコの出会いの物語。
点字ブロックの上でふざけていたヤンキーを、弱視の少女が白杖を「うまく」使って注意したことをきっかけに、徐々に交流を深めていきます。
白杖というのは、視覚障害者が持つ白い杖のこと。少女はこの杖を周りを知るための道具として使っているのです。
第1話の作者のコメントによると「全盲ではない視覚障害者の、まだ知られていないことを知ってもらいたくて描きました」とのこと。
このコメントだけを見れば、「全盲ではない視覚障害者がいかに社会で生きにくいか」を描かれていると思うかもしれません。
たしかに本作でも、その部分はきちんと描かれています。
視覚に頼れない分、聴覚や触覚、物の並びなどを覚えておくことで社会で生活する視覚障害者ら。
ということで、店舗で物の並び方が変わると困るし、うまく認識できない色もあります。
相手の状態などを知るためには、手のひらで接触することもあります。
極め付けは白杖。この杖のおかげで、外から見て誰からも「視覚に障害がある人だ」とわかる。
作中の人物からもずばり「『ふつう』の私にはできないことが許されない。ずるい」という趣旨の発言が出ます。
しかし作中でも描かれているとおり、白杖は視覚障害がある人にとっては、不可欠の道具。
これを「熱い珈琲を飲むためのカップのようなもの」という、巧みで説得力ある比喩で説明してくれます。
だから作中で「ずるい」という思いを抱いてしまうキャラクターも、「同じ人間」とするりと認められるのだと思います。
これを読んで自分にとっての眼鏡を思い出しました。
子供の頃から本とマンガの読み過ぎで、眼鏡が手放せず、最近は買い物にいっても眼鏡がないとほとんどものが見えない状態。
もはや私にとって眼鏡は、ファッションであると同時に世界と自分をつないでくれる道具。取り上げられたらうまく社会と接点を持つことはできなくなります。
「多分眼鏡が気軽に手に入らない社会だったら、社会からはじかれていただろうな」と思いました。
もちろん障害がなければないほど、できることは多いと思います。
でもそれぞれが少しずつ生きづらさを抱えていても、生き延びられる社会にしていくことが「社会の進歩」なのではないでしょうか。
これ以外にも、障害者の家族だからこその苦しさや、がんばれなくなったり泣いたりする「障害者本人」など、当たり前ですが今までの障害者が登場する物語ではあまり描かれてこなかったところにも目配りされています。
もちろんこれが全盲ではない視覚障害者のすべてではないし、あくまで「サンプル1」だとは思います。
しかし「どうせ、障害者の感動ものでしょう」と斜に構えてしまう人が読めば「こういうことが知りたかった」と思えると思います。
とにかく、トキメキ
こうした社会的な問題を考えさせるのに、読んでいてしんどくない。
それはひとえにトキメキがつまっているから。
どのエピソードを読んでもトキメキしかないから。
初めて男の子からもらったプレゼントにどきどきして、どうにかして高いヒールの靴をはきたい。
つきあっているわけではないけれども一緒に行く映画が楽しみ、つい声が聞きたくて電話をしてしまう・・・・・・少女マンガが大事にするトキメキが「これでもか」と詰め込まれています。
というより、上記のような難しいことを考えなくても、すごくもどかしい2人の恋に至るまでの物語が、ちょうどいいテンポで描かれているのを楽しむことができる作品なのです。
私も途中から、社会問題を考えるのをやめてひたすら2人がいつ、どういうタイミングで告白して付き合い始めるところが描かれるのかを考えていました。
「物語にときめいていたら、なぜか社会問題を考えるようになっていた」というぜいたくさ。ドラマ化とかどうでしょうかね?
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