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家族の命が突然奪われる。想像だにしない現実を『家族がいなくなった日 ある犯罪被害者家族の記録』は教えてくれる。

平穏な一日が終わったとき、同じような「明日」が来ることを私たちは疑いもしない。

世界のどこかで無慈悲に尊い命が奪われたニュースを目の当たりにしてさえ、それが自分に降りかかってくるなど想像だにしない。

 

『家族がいなくなった日 ある犯罪被害者家族の記録』は、当たり前の日常が突然崩れたとき、家族は、ひとはどのような状況になるのか。その現実を教えてくれる。

 

 

作者の今田たまさんは、まさにご自身の父親が突然殺されるという衝撃的な体験をされた方である。

マンガを描くことが趣味の普通のOLであった作者は、当時自宅にいた。

 

普段は午後11時頃に帰宅する父親、電話をしても出ない。

心配になって勤め先のパチンコ店に車を走らせると、救急車を目撃し、現地に警察官が立っている。再度父親に電話をしても父親は出ない。

 

警察官から、何者かに父親が刺されたようだという話を聞き、姉と弟とともに病院へ向かうと、医師から父親が亡くなったことを聞かされる。

 

この「記録」は、最愛の父親の命を、誰かに突然奪われることからスタートする。

 

 

突然の嘔吐に加え、立っていることもできなくなる作者。少し前まで当たり前に生きていた、時間と空間をともにしていた人の死は、突き付けられた事実をもってしても現実的ではなくなる。

 

ただ、その現実は向こうから迫ってくる。

亡くなった父親との再会は不可避であり、深い悲しみと犯人への憎しみが同居する。

 

本書は、殺人によって家族を失ったため、警察やマスコミとのやり取りや裁判シーンなど、遺族として「こういうことになり得るのか」ということが淡々と、かつ、感情を隠さずに描かれる。

 

死刑にしてほしいんです

犯人がまた社会に出てくるのなら・・・私が殺してやります!

 

検事は、極刑は難しいこと。遺族感情は量刑に十分考慮されることを伝える。

 

犯人の両親からの面会依頼、犯人に下された判決、そして犯罪被害者対策室のカウンセラーとの別れ。

同じ現実にいた姉と弟とのコミュニケーション。そのどれもがつらく、苦しいものとして作者にのしかかる。

 

耐えきれない苦痛と苦悩に身体は悲鳴をあげ、病院では鬱の診断を受ける。

食事も睡眠も満足にできない生活に陥る。

作者はむしろ“そういうタイプ”ではなかったそうだが、突然の父親の死が、ひとの心をどのように蝕むのか、読み手にもその苦しさが伝わってくる。

 

『家族がいなくなった日 ある犯罪被害者家族の記録』には、当時作者が書き続けた「記録」がそのまま掲載されている。

日記形式ではあるが、本作品と日記を連続的に読むことで、家族の命が突然奪われるとはどういうことなのかを強く読み手に考えさせるのだ。

 

今日と明日は連続的につながっているように見える。しかし、想像していない出来事によって、私たちの日常は一転する。

この世界で私たちが想像しないことが本当に起こるということを、本作品は教えてくれる。