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ミステリと言いたい『ミステリと言う勿れ』押し付けないメッセージの心地よさ
いくつになっても好きな作家の長編が終わったあと「次はどうなるのか」と気になるものです。私にとっては2018年、田村由美先生がそうでした。
そうして出てきたのが、久能整を探偵役に置いたミステリー(?)漫画『ミステリと言う勿れ』。
 
とかく「人の謎を暴く存在」とされやすい探偵が、観客と読者に納得と安心をもたらす存在となっています。

 

大きな物語の中で光る小さな大切なこと

 
田村先生は少女漫画家として長く活躍され、数々の代表作があります。
10巻以上の長編なら『BASARA』や、『7SEEDS』。比較的短めなら『ボクが泥棒になった理由(ワケ)』『ビショップの輪』など。
 
 
人々が幸せな国造り、崩壊した世界でのサバイバルーー世界や社会が主語になるような、人々を翻弄する大きな物語を描きながら、同時に「最後に人間を支えるものは、実は小さな幸せや人とのつながりである」というメッセージがバランス良く描かれていると思います。
 
大切な人と一緒にいたい、誰かの役に立ちたいーーこの幸せや満足は、どんなささいなことでも人間が人間であるために捨て置けないことだからです。
 
 
そして新作の謎解き物語ミステリと言う勿れ
 
こちらでも、主人公・久能整(くのうととのう)が巻き込まれる「事件」という大きな物語を解決に導くと同時に、事件に関わった人たちの抱える悩みごとを解きほぐしていきます。
 
各エピソードが終わるごとに、事件の解決はもちろん、関わった人たちの多くが次の一歩に踏み出せることにほっとします。
 
 
ミステリと言う勿れ (1) (フラワーコミックスアルファ)
著者:田村 由美
出版社:小学館
販売日:2018-01-10
 
 

押しつけないメッセージ

 

この作品は、いつどんなメンタリティのときに読んでも、すっと心に作者のメッセージが伝わってきます。
 
その秘密は久能整の語り口にあると思います。
 
探偵物は往々にして、探偵本人が事件解決には関係ない自分の考えをとうとうと語り、犯人に改心や反省を促すことが多い。(『金田一少年の事件簿』では高校生が大人に向かって生き方を説くというシーンも。そして比較的この語りが少ないのは『名探偵コナン』です。見かけが子供だからでしょうか?)
 
数ある探偵物の中でも、この久能整は語りが多い。
 
男社会の警察のなかでうまくいかない女性刑事、子供のいる妻とうまくいかない男性、自分の父親から「女性とは」の理想像を説かれる女性ーーあらゆる立場のいろいろな人に対し、久能は自分の考え方を伝えていきます。
 
 
でもその考え方の伝達は、けして暑苦しくも不愉快でもない。
 
それは伝え方は「こうするべき」という押し付けではなく「自分ならこう考える」「こう考えてはどうか」というスタンスだから。押し付けではなく、「こういう考えが僕は好きです」と受け入れるかどうかは受け手にゆだねられているのです。
 
伝えられた方は、言葉をいったん自分の中で咀嚼し、自分なりの答えを出していきます。
その久能の語りは、作品中の登場人物の外側にいる読者にすら彼の考え方を投げかけてくるため、読者も作品中の登場人物とともに考えることを求められます。
 
探偵として事件を解決しながら、実は登場人物や読者が抱えていることに対する向き合い方を示していく。
 
探偵とは人に納得と安心をもたらす存在であるという考え方を見せられた気がしました。
 
 
この作品を読んで思い出したのは、京極夏彦先生の京極堂シリーズ。京極堂シリーズで事件を収束に導く中禅寺秋彦は、事件や謎のせいでほかの登場人物や読者が混乱すると「この世には不思議なものはないのだよ」と看破します。
 
『ミステリと言う勿れ』では、中禅寺さんほど強い言葉ではないですが、久能整の解きほぐし方の根底には「あなたが悩んでいることは、こう考えれば謎でもなんでもないですよ」という雰囲気が垣間見えます。
 
  
そして気になるのは久能整本人の過去です。
今のところ作中では、一般的な日本人に比べて考えすぎで、こだわりが強すぎると描かれています。なぜ彼はこう育ったのか。
 
「ミステリーだ」と言いたいところですが、久能整にかかれば「ミステリーというほどでもないですよ」と言われそうです。
 
 
【追伸】
全然関係ないのですが、田村先生は長編作品中心にいつも主要キャラクターの名前に意味を持たせます。今回も「久能整」を含めもどのような意味があると読めばいいのか気になります。
 
 
ミステリと言う勿れ (1) (フラワーコミックスアルファ)
著者:田村 由美
出版社:小学館
販売日:2018-01-10
ミステリと言う勿れ (2) (フラワーコミックスアルファ)
著者:田村 由美
出版社:小学館
販売日:2018-05-10
ミステリと言う勿れ (3) (フラワーコミックスアルファ)
著者:田村 由美
出版社:小学館
販売日:2018-10-10

 

 

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