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富山に行く予定の人も、行かない予定の人も、とにかく『月影ベイベ』を読もう。ダンス、ダンス、ダンス!

10年ほど前、3カ月ほどスペインに行ってました。

滞在中にちょうど「セビリア春祭り」という大規模なお祭りがあったんです。

 

そのお祭りの最中、フラメンコの簡易版って感じの「セビジャーナス」というダンスをやんややんや踊ります。セビリアに住む人たちには馴染みのダンスで、和久井もレッスンに通って臨みました。

 

やっぱり祭りは踊らないと!

 

それにしても1週間ほど学校もお休みになるわ、移動式遊園地は来るわ「マジでラテン人は祭りに命かけてんな!」って感じでした。

だがしかし、祭りに命をかけてるのはラテン人だけではないようです。

 

『月影ベイベ』でテーマになっている「おわら」。

富山市八尾(やつお)地域で毎年9月に行われるお祭り「おわら風の盆」で踊る伝統行事だそうです。

 

月影ベイベ(1) (フラワーコミックスα)
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著者:小玉ユキ
出版社:小学館
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和久井は風の盆どころか富山県にも(たぶん)行ったことがないのですが、動画を見る限り「越中おわら節」の哀愁に満ちた音楽に乗せて、静かな水面を打つようにピシリピシリと振りを合わせて踊る、たいへん静謐な雰囲気の踊りでした。

 

踊り手は笠をかぶっており顔が見えません。それがとても神秘的です。

 

Wikipediaを読むと、「おわら」の起源は江戸時代。町外に持ち出されていた「町建御墨付文書」というなにやら大事な文書を町民が取り戻したことを大喜びして、やんややんや三日三晩踊り明かしたことから始まったそうです。

なんともやんちゃな話で、今の風流なお祭り風景とはだいぶ事情が違うようですな。

 

八尾地域の子どもたちは、子どもの頃から「おわら」を習い、鍛錬を続けているのだとか。

和久井は子どもの頃、運動会で「ソーラン節」やら「御神楽」やら踊らされましたが、ああいう「やらされダンス」ではなく、子どもたちが自ら大人たちの踊る「おわら」をかっこいいと思って習い始めるのだそうです。

 

 

『月影ベイベ』は、その独特の雰囲気と、懐かしいような、せつないようなアンニュイなムードがたまらない作品です。

 

蛍子は東京からの転入生。彼女は、母の繭子がなくなったことをきっかけに、その出身地である八尾にやってきました。

転入した高校では「おわら」の練習まっ盛り。蛍子はなぜか現地の子に引けをとらないくらい「おわら」がとてもうまいのです。

 

なぜ、彼女は「おわら」がうまいのか。なぜ、彼女は八尾にやって来たのか。序盤はいろいろと謎が多いです。

 

キュンキュンするだけが少女マンガじゃない

 

ところで世のおじさんには、「汚いおじさん」と「きれいなおじさん」の2種類しかいません。

この作品に登場する円くんは、とても「きれいなおじさん」です。この円くんがストーリーのキモを握っているわけですが、彼は素朴で、ひたむきです。

 

女子高生が性の象徴のようになって久しいですが、性的描写がないということも含めて、いろんな意味でこの作品にはいやらしさがまったくありません。

 

ぶっちゃけ、作者・小玉ユキさんの前作である『坂道のアポロン』がたいへん好きだったのですが、「なんだ今度は文化祭でダンス踊る話? ……フーン」とか思ってたわけです(いろいろ理解してなかったみたいです)。

 

すみません、ここにきてドはまりしました。

 

若いというのは、いろんなことに不器用だということです。

あまりに経験値が足りなくて、見えるものも偏っているし、柔らかい対応もできない。

それが「赤っ恥体験」で済めば笑い話だけど、取り返しのつかないことになったら……?

そのときは死ぬほど自己嫌悪に陥っても、たぶん何十年も経ったらいい思い出です。

 

ドキドキキュンキュンするだけが少女マンガじゃないし、青春ってわけでもない。

小玉ユキさんの絵は目にキラキラ星がなく、線も割と太めで固いタッチです。それが妙に懐かしさを感じさせるのですよね。

 

『月影ベイベ』を読んで「おわら」を知り、富山に行ってみようと思った人も多いでしょう。まさに和久井自身がそうです。

作中、八尾の方言がたくさん出てくるので、行く前に語学の予習をしていきたいです。何気ない街の風景も実在の場所とのこと。聖地巡礼も楽しめます。

 

なにかの出会いをくれる作品って、やっぱり名作なのだと思うのです。

 

 

月影ベイベ(9) (フラワーコミックスα)
著者:小玉ユキ
出版社:小学館
販売日:2017-05-26