TOP > マンガ新聞レビュー部 > マンガミステリ界に新顔登場―『あしあと探偵』でクセ...

 2017年、マンガのミステリの国にまたひとり住民が加わりました。その名も寺崎。『あしあと探偵』に登場する探偵です。圧倒的な洞察力で謎解きの面では強者なのに、どこか欠けたところがあり読者はいつまでも彼から目が離せないいーー『あしあと探偵』ではそんな寺崎の活躍が楽しめます。

 私の個人的な「2017年の10作品」のひとつが、推理小説家、有栖川有栖先生の『ミステリ国の住人』。古今東西の推理小説に登場する探偵を「住民」として紹介したエッセイ集です。

 そして読みながらふと思い浮かんだのは「マンガの世界からは誰が住民になれる?」という疑問。

 『ミステリ国の住民』にはマンガ世界の出身者は入っていませんでした。でも、マンガ世界の探偵も小説出身には負けていないはず。

 

 マンガ家によって味付けされたシャーロック・ホームズや金田一耕助といった小説のコミカライズ作出身に加え、金田一一に江戸川コナンという二大巨頭。そして橘右近に榊森羅、燈馬想と、マンガ出身の探偵たちはいずれも劣らぬ個性的で魅力的な人たちです。

 そしてここに加えたいのが『あしあと探偵』の寺崎。

 

あしあと探偵(1) (アフタヌーンコミックス)
著者:園田ゆり
出版社:講談社
販売日:2017-02-23
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 寺崎が勤めるのは東京都内にあるとみられ、人探しを得意とする犬養探偵社。物語は職を失った青年、麦野がこの探偵社に就職するところから始まります。
 

 寺崎のもとで探偵見習いとして働き始める麦野。探偵としては優秀ながら突飛な行動の目立つ寺崎に振り回されつつ、徐々に寺崎や探偵社の人間とのつきあいに馴染んでいきます。

 この寺崎が、なぜこんなに物語の世界で魅力的なのだろうとも考えたとき、ピタリときたのは有栖川先生の説明です。

 

 有栖川先生は『ミステリ国の人々』のなかで「ミステリ国で謎をといて犯人を指摘するものはたとえ謙虚で弱々しい人であっても知的な闘争の勝利者」「なので有栖川作品では、この英雄に陰影をつけるために探偵という行為に苦さを味わうように設計している」と説明しています。そして苦さを味わいながら探偵行為を進める有栖川先生の作品の探偵たちは、誰もが一筋縄ではいかない人々。

 

 これは寺崎も同じ。まず第1話から依頼人の気がつきたくなかった本心を言葉だけでえぐり出して、怒らせてなぐられる。そしてワーカホリックで、飲むのはトマトジュース。理性的な判断ができなくなるのがいやなので、恋愛とアルコールを避けるという偏屈さ。「寺崎って、なにか普通の自分と比べるとちょっと欠けているぞ」と思わせることで、ずばずばと真相を明らかにするという知的闘争の勝者である寺崎に対して、読者が親近感を抱けるようになっています。

 

 もちろん探偵としての能力はずばぬけています。電車で見かけただけの相手を探してほしいという女性の依頼に応えるため、何とか相手の姿を浮かび上がらせようと依頼人を1ページ丸ごと使って質問責めにするシーンは圧巻でした。説明ではない、絵の力で探偵の優秀さが描かれています。

 

 各エピソードで取り上げられるのは、金田一やコナンのように、多くの人が悲劇的な理由で殺されるような派手な事件ではなく、あくまで「いなくなった人を捜してほしい」という身近なできごと。でも身近な事件だからこそ「いつか自分も寺崎と向き合うかもしれない」と思わされ、探偵たちの行動から目が離せなくなってしまいます。

 

 犬養探偵社の目的、寺崎が探偵をするわけ。そしてややエキセントリックなアルバイト大学生の過去と、すごーく気になることが明らかにならずに終わってしまい、残念でした。でもそれも探偵らしい。面白い探偵や探偵物語は、少しぐらい謎があるもの。「周りに面白い人がいないなー」と日常の出会いがつまらない人こそ、一癖も二癖もある探偵の登場する『あしあと探偵』を手にしてほしいと思います。


 

あしあと探偵(2) (アフタヌーンコミックス)
著者:園田ゆり
出版社:講談社
販売日:2017-11-22
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