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※この記事は2017年3月11日にマンガHONZ(運営:株式会社マンガ新聞)にて掲載した記事の転載になります。
レビュアー:マンガサロン『トリガー』

脳内アリス(上) (KCx)
作者:タカハシ マコ
出版社:講談社
発売日:2017-02-07
  • Amazon
  • Amazon Kindle

一緒に死んだって
一緒には死ねない

生きたって一緒にはいられない

『脳内アリス』の中で最も印象的な節です。

上下巻が同時刊行されたタカハシマコ先生の『脳内アリス』。タカハシマコ先生と言えば少女ですが、今回のダークな現代メルヘンはヒロインである少女・宇佐美灯莉(うさみともり)の序盤の描写から、読んでいて非常に辛くなりました。

実母に捨てられ、バイトしながら認知症の祖母の世話を一人でしていた灯莉。良家の娘であった祖母は認知症になってもなお厳格で、放蕩娘であった灯莉の母親のこともあって、灯莉にもヘルパーにも徹底的に女性性を排除することを強要します。ヒラヒラしたスカートを履くな、男性と話すな、踵の高い靴を履くな、香水をつけるな……。その結果、年頃であるにも関わらず、灯莉は制服以外には一張羅の洋服しか持っていないという有様。

元々聡明であった人物が糞尿を垂れ流し、幼児退行したかのような言動を取る様は何とも名状し難いものがあります。一方で往々にしてプライドはそのままであり、罵詈雑言を吐かれることも日常茶飯事なので、普通に接するだけでも心労は多大なものになります。私自身も自宅介護をしていたので、灯莉の憔悴に非常に共感を覚えました。

大の大人がやってもノイローゼになる介護を、まだ年端もいかない少女が働きながら一人で行うのは無理があります。介護はまったく終わりが見えないもの。ましてや、灯莉には誰も助けてくれる人がいません。彼女の瞳の色は現実への未練と共に色褪せ、もう死のうと決意するに至っていました。

そんなある時、祖母の体から出現したのが「アリス」です。

死が近付くと、その人固有のアリスと呼ばれる少女が出現。アリスは普通の人間には見えず、言葉も聞こえませんが、中には普通の人間と同じように接することのできる人もいます。灯莉は祖母のアリスと旅立つことになります。そして、旅先でアイドルオタクや整形を繰り返す女性など様々な死を目前に控えた人々、及びそのアリスたちと出会っていきます。

果たして、アリスとは一体何なのか。死を希求する灯莉や、祖母の運命は……。祖母が好きだった画家の小鳥遊窓を加え、不穏な物語の歯車は加速していきます。

登場する人物たちが、大体どこかしら壊れてしまっているが故にもたらされる危うさのある雰囲気が魅力です。しかし、私は小鳥遊にも感情移入してしまいます。誇大妄想とも呼べるものが、世の多くの人に美しい幻想として共有され受容されているのも、また寓話的な世界の在り方の真理です。残酷な真実は極限られた人間の裡に埋葬され、彼の中では真摯であるはずの愛の賜物は、きっと後の時代にも継がれ愛されていくことでしょう。

世界は決して自分のためにはあってくれず、畢竟あらゆる存在は孤独。しかしながら、それは全く救いのない孤独ではないということも提示されます。どんな孤独にあっても逆に自分という存在は必ずそこにあり、進む道を選び取ることもできる。どんな状況にあっても自分だけは自分を護ることができる。そんな一片の光をも感じさせてくれました。

ところどころ『不思議の国のアリス』を想起させるシーン、あるいは直接的に言及するシーンも登場します。カラスと書き物机の謎掛けではないですが、共通する点を探してみるのも面白いでしょう。ちなみに、『不思議の国のアリス』のアリスのモデルになった少女も灯莉のような黒髪だったといいます。

上下巻を同時に買っての通読がお薦めです。
 

脳内アリス(上) (KCx)
作者:タカハシ マコ
出版社:講談社
発売日:2017-02-07
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脳内アリス(下) (KCx)
作者:タカハシ マコ
出版社:講談社
発売日:2017-02-07
  • Amazon
  • Amazon Kindle

文章:マンガサロン『トリガー』店長兎来栄寿

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