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現代の性転換事情が一冊でよく解るエッセイマンガ

※この記事は2017年2月22日にマンガHONZ(運営:株式会社マンガ新聞)にて掲載した記事の転載になります。
レビュアー:マンガサロン『トリガー』

生まれる性別をまちがえた! (角川コミックス)
作者:小西 真冬
出版社:KADOKAWA
発売日:2017-02-04
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昨年、『僕が私になるために』という作品が発売され話題になりました。性転換、正式には性別適合手術(Sex Reassignment Surgery、略してSRS)をタイで行ってきた方の体験エッセイマンガです。全く未知の世界であったため興味深く面白く読めつつも、色々と考えさせられる作品でした。

そして今月、また別の方によるタイでSRSを受けた実体験をマンガにした作品が発売されました。それが、今回紹介する『生まれる性別をまちがえた!』です。こちらも非常に良い作品で、ぜひ万人に読んで欲しい一冊となっています。

『僕が私になるために』の中では、SRSにおける造膣方法は主に「反転法」「S字結腸法」「その他(スポーンテクニックなど)」の三種類に分類され、筆者はS字結腸法による手術を選択していました。

一方、『生まれる性別をまちがえた!』の筆者である小西真冬さんは、正に「その他」のスポーンテクニックによる手術を受けた方です。

「仕上がりが非常に美しい」「深さも女性と変わらず、感度も生まれながらの女性以上に抜群」というスポーンテクニック。スポーン医師は世界一の技術を持つとも言われます。小西さんは、そこに惹かれてスポーンテクニックを選択したとのことです。ちなみに、スポーンクリニックでの手術費用+アテンド料金(航空費、宿泊費含)でおよそ250万円、そして予約は一年待ちだそうです。

手術方法は違えど、大まかな流れはほぼ共通しています。ただ同じ体験をしたとしてもその感じ方に個人差があるので読み比べると非常に面白いです。

『生まれる性別をまちがえた!』は、とにかく筆者自身の性格が明るく、気持ちがいいほど豪放磊落なことが一つの大きな特徴となっています。

普通の日本人であればタイ人の奔放さに驚き呑まれるであろう所を、逆に英語もフィーリングで何とかしつつタイ人を上回るマイペースさとバイタリティでを驚かせていく小西さん。痛みや疲労を感じたり、全身麻酔で意識が朦朧としていたりすることの多い手術直後に、全くそれらを感じさせずゲームをしステーキをガツガツ食べて、タイ人のアテンドに訝しく思われる所など実に痛快です。

ただ、そんな小西さんといえども苦しんで苦しんで苦しみ抜くことになるのがSRSであるということも、本書を読むと伝わってきます。

おしっこすら自分の力だけではできなくなる状態の尊厳なき無力感。
激痛を伴い、記憶が飛ぶほどのダイレーション。
食欲とともに減退していく元気。
何よりも、素朴な「ありのままの自分になる」というだけのことにどうしてこれほどまでの苦しみを味わわねばならないのか、なぜ男に生まれてしまったのかという煩悶。そして、これだけ苦しんでもなれるのは女性ではなく「女性のような何か」ではないのか、と果てしない孤独感の中で苛まれたといいます。

マンガで描かれているだけでも非常に辛く苦しいであろうことが伝わってきますが、実際のご本人のしんどさは言葉にできないほどのものがあったことでしょう。

SRSは肉体的な負担は勿論ですが、精神面への負担がそれ以上に大きいそうです。
本書では、その恐怖も焦燥も葛藤も、全てが赤裸々に綴られているが故に、心を打たれます。そして同時に、同じ悩みを持つ人にとっては掛け替えのないエールにもなるでしょう。

まだまだ社会には偏見があり、拒絶されることが大きな心の傷になることもある一方で、タイでは同じように手術を受けて辛さを共有できる人たちと仲良くなったり、友人からのメッセージが強い励みになったり、自分を受け入れてくれる人と繋がれることが心の支えになっていく様子も描かれます。

孤独が人を殺す一方で、縁は人を生かす力を持っています。普通に接してくれる、ただそれだけのことがどれだけ尊く有難いか。多数派を「正常」、少数派を「異常」と括る社会の方こそ異常ですが、個人としても社会としても多様性をより柔軟に受け入れていければと思わずにはいられません。

最終話の

「性別適合手術は夢を叶える魔法じゃない」

から始まる一連のモノローグには、とても強い想いが込められているのを感じました。本当の自分になる、本当の自分でいるという、ただそれだけのことが人より何倍も難しい人が世の中にはいる。そのことを当たり前にできている人も、少しだけ歩み寄って互いに理解し合えたならと思います。

ただ、重いテーマを描きつつも、コミカルな描写も多々交え面白く読んでもらうための工夫が随所にちりばめられているのも本書の特徴です。決して思想を押し付けるようなこともなく、読み手に委ねる内容となっています。

ジョジョ、デスノート、くそみそテクニック、カイジ、聖闘士星矢、刃牙……かなり豊富なパロディネタが盛り込まれており、それ自体も面白かったのですが、小西さんの根底にあるマンガ愛を感じた気がしました。そして同時に、人を楽しませることが好きな人なのだろうとも思いました。

全編を通して絵柄も綺麗なので、今後女性マンガ家としての小西さんが生み出していくものも非常に楽しみです。

筆者が言うように、同じ境遇の人にはこれ以上なく参考になるでしょうし、そうでない人も自分の知見や世界を広げる意味で読んでおくことに大きな価値のある一冊です。

余談ですが、あるノベルゲームとの出会いがSRSを受ける大きな切っ掛けになったというエピソードに個人的に「おおっ」と思いました。魂を砕いて作られた挑戦的な物語が確かに人の心を打ち、人生を変える瞬間に立ち会った感動があります。『北へ。』をプレイした方なら、作者の名前を見て思う所があることでしょう。

 

文章:マンガサロン『トリガー』兎来栄寿

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