TOP > 岩明均短編『ヘウレーカ』『雪の峠・剣の舞』に見る、...

先日、岩明均さんの『レイリ』のレビューを書かせていただいて以来、『ヒストリエ』を読み直してみたり、岩明さんの過去作品に色々手を出しています。
 

これは所謂、作家横滑り状態ですね。マンガ好きの方なら、良く経験されることと思います。とはいえ、あの『寄生獣』岩明さんの作品です。一つ一つの作品が、さっと通り過ぎることを許さない、どこか心に引っかかる作品が多いのですね。言葉に必ずコンテキストや裏があるから、パッパッと次のページをめくらさせてくれないんですよね。
 

今回はその中から、2冊3作品ほどご紹介させていただきます。

 

1作品目は『ヘウレーカ』です。『ヒストリエ』と同じくローマものですね。時代はローマとカルタゴが争う第2次ポニエ戦争の真っただ中、戦禍に襲われるイタリアの南に位置するシチリア島のシラクサという街が舞台です。
 

主人公はスパルタ人だけども色々あってスパルタからシチリアに流れて来た男ダミッポスです。なかなかイケメンで、シラクサを愛するローマ人、クラウディアとお付き合いしてます。
 

他にも、日本人でもさすがに知ってるこの時代の有名人が2人出ます。一人が不敗の将軍ハンニバル、もう一人がアルキメデスです。ハンニバルさんは名前だけ出て恐れられてるだけで、それほど出番はありませんが、アルキメデスさんは、もう半ば主人公じゃないかと言えるくらいの活躍でした。いや、出てくるアルキメデス本人は、もうすっかりお爺ちゃんなんですが、アルキメデスの作った道具が大活躍します。
 

どう活躍するかと言えば、それは本編を読んでくださいというところですが、実際、お話的には主人公のダミッポスより、このアルキメデスの発明品たちが街を敵の大軍から守るシーンは、なかなかのものです。ちょっと怖いですが面白い。

そして、イケメンで女性にもてる賢い人であるダミッポスさんも、活躍してるんだかしてないんだか良く判らないのですが、最後にはその優秀さをあまりうれしくない形で発揮します。

 

そして来ました。岩明さんの作品ではいつも出てくる印象的なセリフ、『ヒストリエ』で言うところの名言「ばっかじゃないの?」に迫るセリフで、なんとも色々消化不良のまま締まります。これぞ岩明節。たまりません。この締めのセリフにコンテキストを張りめぐらすために、この1冊があると言っても過言ではないでしょう。ということで、どうぞこの締めの一言に向かうためにも、是非本編をご覧ください。

 

続いて、『雪の峠・剣の舞』です。こちらはそのものずばり、作品『雪の峠』と『剣の舞』の2作品が入っています。
 

前半の『雪の峠』は、戦国末期から江戸初期の常陸佐竹氏のお話です。常陸佐竹氏と言ってもなかなか知名度の高い大名ではないのですが、なかなか味わい深い存在です。佐竹氏は、最終的に戦国乱世を制した徳川家が構える関東地方に一番近いところにいる老舗の大大名でした。日本を二分した関ヶ原の戦いで、あろうことか西軍についてしまいます。人望の無かった石田三成についちゃったり、茶の湯でも千利休の繋がりから、どうも弱いほうと繋がってしまいます。
 

結果、西軍が負けたのち、東北は出羽、今の秋田に国替え(大名として片道切符の転勤を命じられること)をされました。当時の大名に多いことですが、国替えの際にもとの国より小さい国に収められてしまい、多くの家臣を抱える大大名は、泣く泣く家臣をお役御免にするなど、悲喜交々というか、とても哀しい東北行きだったと思います。
 

その出羽佐竹藩が、国替え後初のお城づくりをするところが、この『雪の峠』の物語の中心になります。当時、城づくり=街づくりと言えるほど重要なことで、徳川幕府が開いて間もなくより、各国の大名は、お城を建てるのも改修するのも、幕府にお伺いを立てねばなりません。その届け出る場所決めひとつをとっても、実利を求めることと同時に幕府の顔色をうかがわなければなりません。
 

そんな中、現在の当主佐竹義宣と、先代当主義重の間に、家臣を通して勢力争いが起こりました。優秀な若手代表渋江内膳と、若手の台頭を良く思わない、昔ながらの老臣たちの対立は、最後には。。。というお話です。お話そのものも面白いのですが、例によってセリフが引っ掛かります。上記した、関ヶ原からの佐竹の没落をコンテキストとして読むと、淡々としたセリフも味わい深いものとなっていきます。

 

もう一遍、後半の『剣の舞』は、より以上に破滅的な始まり方でした。若干『レイリ』の設定にも似るこの物語は、武田、上杉、北条と大国の狭間に置かれた上州長野家を舞台に始まります。最初から滅亡必須です。この上州には当時、剣聖と呼ばれた戦国期最強剣士の双璧、上泉伊勢守信綱がいました。その高弟、疋田文五郎に主人公ハルナが弟子入りする所から物語が動き出します。
 

ハルナは家族を戦で殺され、自身もひどい目に合っています。その復讐をここまでストレートに果たす物語も珍しいのではないでしょうか。これもまた、当時の武田や長野家の環境を知ったうえで読むと、味わいがより深いものになります。この長野家というのは、昨年の大河ドラマ真田丸で言うと、主にパッパ(お父さん)の真田真幸とも縁が深く、武田家とは因縁の深い家です。その間には、このハルナのような不幸な女性は沢山いたことでしょうが、恐らく、ハルナのように判り易く復讐を果たせた女性も珍しいでしょう。そういう意味では、なるほどね、良かったねという読後感がありました。

 

ということで、短編3本をご紹介しました。岩明さんの作品が好きな方にはマンガ的に味わい深いところですし、上記の時代が背景が好きな人にも楽しめます。両方好きな方は、とりあえず両方購入してしまわれること、おすすめいたします。

ヘウレーカ (ジェッツコミックス)
著者:岩明均
出版社:白泉社
販売日:2013-06-10
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