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かっぴーさんは2015年秋の『フェイスブックポリス』以来『snsポリス』『左ききのエレン』など、短期間に多くの作品を、ネットを主戦場として発表されています。次々と繰り出される作品は、これまでのフォーマットとは明らかに違う性質を多く持っていました。

『左ききのエレン』かっぴー・佐渡島庸平・集英社浅田貴典トーク「ネットマンガに必要なことといらないこと」

*:本イベントは、マンガ新聞社が運営するオンラインサロン「ネットマンガ実践研究会」が2017/7/3(金)に開催したサロン会員限定イベントです。

『ワンピース』初代編集の浅田さん、『左ききのエレン』のかっぴーさん、マンガHONZ編集長の佐渡島の3人で対談して、ネットでのマンガと「知られるためのコスト」の関係など、ネットマンガの課題と可能性、今後のマンガ産業はどうなっていくのか?、ネットマンガでの創作について語ってもらいました。今、一番新しいネットマンガの実践論です。

左ききのエレン(1): 横浜のバスキア
作者:かっぴー
出版社:ピースオブケイク
発売日:2016-08-07
  • Amazon Kindle

かっぴー:今日はネットマンガがテーマだと思うんですが、ジャンプ+とかの大手の出版社がやっているものと、ネットで単体で作品を発表しているものとはちょっと違うと思っていて、なにが違うかって言うと「編集がついているか、ついていないか」っていうことだと思ってます。

最近、すごく感じるんですが、マンガは編集がつくとすごく変わるんですよ。そういう意味でいうと、エレンはネットマンガだから描けているもので、これが出版社の連載だったら何回も打ち切られていると思います。人気出るのが遅すぎたんで。

3巻くらいから火がつき始めてはじめて5巻のニューヨーク編くらいでやっと跳ねた感じです。大手の出版社だったら多分2巻で打ち切ってるんじゃないかな(笑)。

同じネットマンガでも、編集がついているマンガは打ち切りの危機感がある感じがします。ヒネって裏を書いて、毎話サプライズがあるっていうやり方が多い気がします。

浅田:ためてためて火がつくタイプの作品もあるんですけど、そうならない作品も多くて、そうなると、雑誌というスペースが限られた媒体のなかでは、これから出てくる若手のチャンスを奪ってしまいます。作品の入れ替えが宿命なところで仕事をしていると、人気を取ろう、驚かせよう、と思ってしまうかもしれませんね。

佐渡島:浅田さんは『インベスターZ』とか『ドラゴン桜』とか、僕が編集で担当した作品も面白いって言ってくれてて、三田さんに会ったときでも、本人が喜ぶ、鋭い感想を言ってくれたりしてたんですけど、一方でそれをジャンプでやるっていうことにはならないじゃないですか。それで聞きたいんですけど、『左ききのエレン』を浅田さんが面白いというのは、どういう意味で面白いんでしょうか。

インベスターZ(20) (モーニング KC)
作者:三田 紀房
出版社:講談社
発売日:2017-09-22
  • Amazon
  • Amazon Kindle

浅田:僕にとっては、どのマンガでも「発表される媒体にあわせて面白く作られた作品」は面白いと思ってるんですよ。だから『左ききのエレン』もためてためて、3巻、4巻くらいで、すごく面白くなってくる作品だから、ネットマンガとして発表したのは正解だと思ってます。これが他の媒体に載せたら打ち切られちゃうっていうのは、考える必要がないんじゃないかな。それは別々の楽しさですから。ラーメンが好きな人と素麺が好きな人と、どっちがいても良いじゃないですか。

今、紙の雑誌だけじゃなく、Twitterで発表するマンガがあり、マンガアプリで連載されるものがあり、pixivに載るものもあり、cakesで連載もあり、自分のブログで出すものもあるし、多様性がありますよね。それぞれが、それぞれの媒体に合わせて適切に作られていればいいんだと思います。

僕がネットマンガで一番最初にすごく面白いなと思ったのは横田卓馬さんだったでしょうか。『オナニーマスター黒沢』とか『痴漢男』とか、あれはあれで、その当時、雑誌にはない、ネットならではの面白さや展開があったりして、すごく面白かったんです。

オナニーマスター黒沢
作者:漫画/横田卓馬 原作/伊瀬勝良
出版社:ニコニコ静画
発売日:2013-08-19

 

いまのネットマンガだったら、史群アル仙さんですね。自分自身の心の痛みを描いたキリキリとしたマンガなんですけど、Twitterに貼ったらブレイクしたというマンガです。

 

他にもスウェーデン人、オーサ・イェークストロムさんの『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』のような情報系のコミックエッセイなども好きです。私小説的なマンガと情報系のマンガが、ネットによってずいぶん可能性が広がった気がします。

北欧女子オーサが見つけた日本の不思議 (メディアファクトリーのコミックエッセイ)
作者:オーサ・イェークストロム
出版社:KADOKAWA/メディアファクトリー
発売日:2015-03-06
  • Amazon
  • Amazon Kindle

佐渡島:「かっぴーさんに編集はついてないんですか?」っていう質問が来てますが、ジャンプスクエアの編集がついてはいても、cakesの「左ききのエレン」は通常の編集のように打合せなんかはしてないんですよね。

かっぴー:打ち合わせはしません。皆さんが想像するようないわゆる「編集」っていうのとはちょっと違うかなと思います。

佐渡島:ジャンプ+なんかでは、編集さんとの打合せがほとんど無しに掲載されていくっていう事例があるということなんですが、浅田さんは今後のネットマンガの編集者の役割というのはどうなっていくと考えてますか

浅田:ケースバイケースですよね。作家さんが求めていることを、埋められればいいと思います。例えば作品の宣伝に力を入れて欲しいという作家がいればそうすればいいし、創作上の悩みを聞いて欲しいという作家がいればそうすればいいですし。作家さんによって求めているパートナーが違うのかなとは思います。

紙の雑誌の編集者も、いろいろいます。おれが好きなものが絶対当たると言う人もいますし、自分の好みは関係ないとにかくお客さんに当てないと意味が無いじゃんっていう人もいます。雑誌によって哲学が違いますので、それが作家さんと幸せな出会いをしていけばいいと思います。

かっぴー:ネットマンガから雑誌に行くという順番はいいなと思ってるんです。自分がジャンプに向いていると思って持ち込むより、ネットで発表しているマンガを見てもらって、「あなたはうちに向いてますよ」って言ってもらったほうがミスマッチも少なくなると思うんですよね。しかも、編集者レベルで合う人が見つかる可能性も高いなと思います。

ネットマンガってすごく広いんで、あまり意味のある定義じゃないなと思っていて、僕は自分が今まで描いていたマンガのことを「インディーズマンガ」って呼んでるんですよ。ライブをやって、大手のレーベルの人が名刺渡してくるとかっていうインディーズミュージックみたいなものかなと。だから音楽と同じで、メジャーに行きたきゃ行けばいいし、インディーズでやると決めたんならネットで作品を発表し続ければいいし。

佐渡島:音楽で言うとインディーズとメジャーの差って消えちゃったじゃないですか。音楽業界で起きたことって必ず本の業界でも起きてるから、インディーズとメジャーの壁も消えていくと思うんです。それはあまり考えたことなかったですか。

かっぴー:岡崎体育さんもソニーミュージックに行ったしなあ。難しいなあ。1年間まるまる野良でネットマンガを描いてきた感想としては、ネットでトップクラスに売れたとしても、ジャンプで一番人気がない作品よりも知名度が低いなと感じますね。

クイック・ジャパン132
作者:岡崎体育
出版社:太田出版
発売日:2017-06-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle

佐渡島:へえー。そう。でも『オデッセイ』ってネット小説なんですよ。

浅田:そこは、英語圏で、世界中を顧客としていたという違いがあると思いますよ。日本の市場規模で、そこまで薄く広く支持を集めて、たくさんの人をヒット作家にするというのが難しいかなと。音楽と同じなんですけど、アマチュアの参入障壁が下がって、発表のハードルは下がっています。そういうなかで、逆に「気づかれる」ためのコストはすごく上がってしまっている。

かっぴー:僕はそういう意味ではラッキーなタイミングでした。

佐渡島:「気づかれるコスト」が上がるなかで、浅田さんはどういう対策をとっていこうと考えているんですか

浅田:僕は書籍の編集をまる三年やりましたけど、書籍って恐ろしいくらい、気づかれるための対策を取らないといけないんですよ。マンガが雑誌に載ったら一定の読者は気づいてくれますが、書籍ってそういう状況でもないんで。しかも『JUMP j BOOKS』 って専用の棚がないので、電撃文庫みたいに、毎月、読者が棚を見に来てくれない。jBOOKSは一冊一冊、作家さんや内容によって、売り方を考えて、読者に届けないといけないので、えらく手間がかかりますね。

佐渡島:jBOOKS で具体的にどういうことをやったんですか?

浅田:それはタイトルごとに違いますね。

佐渡島:うまく行ったのはどんな取り組みがあるんですか?

浅田:最近で言うと、comicoノベルさんと組んで、「ジャンプホラー小説大賞」から2作品を掲載したということですかね。『舌の上の君』と『たとえあなたが骨になっても』の2作品を、comicoノベルさんの読者に合うように絵柄も設定して発売前に掲載しました。いろいろと試行錯誤しましたが、これだ!という決め手を見つけられずに任期を終えました。

舌の上の君 (JUMP j BOOKS単行本)
作者:ヰ坂 暁
出版社:集英社
発売日:2017-06-19
  • Amazon
  • Amazon Kindle
たとえあなたが骨になっても (JUMP j BOOKS単行本)
作者:菱川 さかく
出版社:集英社
発売日:2017-06-19
  • Amazon
  • Amazon Kindle

ネットでマンガがたくさん見られるということは、新作と旧作の境界がなくなるっていうことで、マンガの方は、小説よりもより新人作家が「気づかれるコスト」っていうのが上がってしまってますよね。それを出版社という立場からどうサポートできるかということが問題ですね。

佐渡島:どうしても、ネットのマンガの話になると、「どう売るか」「どう届けるか」に終始しがちなんですが、せっかく浅田さんとかっぴーがいる場なので、物語をどう作るかっていう話をしたいと思うんですが。かっぴーは『左ききのエレン』を連載していくなかで、物語の作り方、主人公はこうやって描くとかが、どういうふうに変化していったかについて聞かせてもらっていいですか。

かっぴー:『左ききのエレン』は色んなタイプのクリエイターが出て来る物語なんですが、主人公のひとりの光一は、僕と経歴がカブる広告代理店のアート・ディレクターなんです。別にスターでもなんでもない、ただの一アート・ディレクターなんですけど、基本的にすべてのキャラクターの作り方が自分の分身なんですよね。

だからひとりの人間っていろんな側面があると思うんですけど、広告代理店で別にスターになれなくとも広告を頑張っていきたいと考えてた自分とか、でも本当はモノづくりに命をかけて一生を終えたいと思っている自分とかを、分解して光一とか、エレンとかに自分が憧れるアーティスト像を投影してます。本当に、登場するキャラクター全部に自分を投影してます。先々週くらいにブログに自分を投影し過ぎてエレン描くのキツくなったって書いたら、みんなに心配されたんですが。

佐渡島:そんな最近ですか(笑)最近、エレンとは別にnoteで連載を始めた小説『アイとアイザワ』って何話くらいまでいってるんですか。

かっぴー:『アイとアイザワ』は一日2回くらい更新したりするんで、9話までいってます。

アイとアイザワ
作者:かっぴー
出版社:ピースオブケイク
発売日:2017-06-22

佐渡島:文章書くの速いんですね(笑) 

かっぴー:文章書くの、めっちゃ速いんですよ。これはエレンを休載している1週間くらいの間に、9話までいってます。

佐渡島:そんな短い期間に書いてたんですか。文章書くの速いですね。

かっぴー:僕、マンガを書くときでも、まずすべて文章で書くんですよ。

佐渡島:そうなんですか?セリフを書いて、それをコマ割りしていくんだ?

かっぴー:そうなんですよ。最初は文章だけですね。『アイとアイザワ』はだから、いつもマンガを描く前に書いている文章を公開するというような感じです。

浅田:それって、ウェブ形態での発表にはすごく向いてるかもしれないですね。まずテキストで書いて、それはページ数のしばり無く書けるじゃないですか。これが19ページとか23ページとかいうしばりがあると、足したり引いたりの作業が発生するんですよ。

この『アイとアイザワ』も基本的にはテキストであるというだけで、『左ききのエレン』と変わらないんだなと感じました。そういう作り方だからネットマンガが向いてるんだと思います。かっぴーさんは、情念をテキストに落とし込んでるっていうところが、作品にいい意味で波及しているんじゃないでしょうか。

佐渡島:浅田さんは、新人さんにいろいろアドバイスしてきたと思うんですが、作家から感謝されたこととか、あの言葉があるから今の自分があるとかっていう言葉ってあるんですか?

浅田:そういうことはあまり聞いたことないですね(笑)。でも、凄くシンプルに言うと、「私はあなたのここが好きです」ということです。当時、それを自覚してやれてたわけじゃないんですが、持ち込みの作家さんが、派手なバトルマンガを書いているとしても、たった一コマ、カワイイ女の子が描けていて、それがよかったら、それを褒めるということですね。

新人さんって、自分のどこが強みかっていうのがわからないので、「ここがいいね」って言うことが、まず迷いの整理に役立つと思うんですよ。

佐渡島:栗原さんっていう、モーニングを創刊した編集長がいるんですけど、その人も同じことを言ってましたね。小林まことさんのマンガを見ていて、一コマに出ている「ネコ」をみて『ホワッツ マイケル』の提案をしたり、かわぐちかいじさんが、劇画を書いているときに全く違うものを提案したり。『天才柳沢教授の生活』でも、たった一コマくらいしか出てこないキャラクターを主人公にしてみようと言ったりして。

新装版 What’s Michael?(1) (講談社漫画文庫)
作者:小林 まこと
出版社:講談社
発売日:2010-08-12
  • Amazon
  • Amazon Kindle
天才 柳沢教授の生活(1) (モーニング KC)
作者:山下 和美
出版社:講談社
発売日:1989-09-20
  • Amazon
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浅田:栗原さんは別格すぎて、あの人みたいなレベルでは言えないです(笑)

【続きます!】

 後半はコチラ!!かっぴーのネットマンガの実践論02 「ウェブから生まれたウェブ太郎で、月に10万稼げるマンガ家なんてほとんどいない」

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