TOP > 『ハッピー・マニア』のシゲタを見なよ、誰だって痛く...

過去の恋愛を思い出すと、痛いことばかりだ。

 

別れ話のあとに長々とうざい手紙を送ったこともあるし、「この人の傷を私が癒してあげるんだ」なんて使命感に燃えてカラ回りしたこともあるし、つき合ったあとに男の人生観を聞き「また間違えた」と思ったこともある。

 

思ったような結果にならなくて肩を落としては、街を歩く2人組がみんな幸せなカップルに見えたこともある。「もう無駄打ちしたくないな」なんて言ってたこともあるし、「恋愛で傷つくのはもうごめんだ」なんて言ってたこともある。

 

私はバツイチなので、婚姻生活を運営していくのがどれだけたいへんかも知っているはずだし、周囲では昼ドラ並みのドロドロ展開になっている夫婦の話も山ほど聞くのに、結婚している夫婦はなんだか無条件に幸せそうに見えてしまう。

©安野モヨコ/コルク

『ハッピー・マニア』には、そんな「恥ずかしくてあんまり人に言えない」話がギッシリ詰まった暴露集だ。シゲタは、やりたいこともない、楽して恋に生きたいダメな子。仕事も長続きしないし、やる気もない。次々とイケメンに惹かれては、さっさとやっちゃって「今度こそ」「今度こそ」と言いながら失敗する。

 

だけど、こんな「ダメな子」が世の中にどれだけ多いことか。

 

少女マンガを読んで育った私などは、黙っててもイケメンが自分を発見して根拠もなく惚れてくれると思っていたし、彼らは私の都合のいい甘い言葉をささやいて、バンバン金をはたいてくれるもんだと思ってた。

 

だけどそんな妄想は、恋愛市場に打って出た途端に打ち破られてしまう。少女が大人になる際の洗礼と言ってよさそうだ。

©️安野モヨコ/コルク

シゲタの恋愛遍歴(と職歴)は、そのまま女子たちの「自分探し」に通じる。

 

いったい何がしたいのか、誰がいいのか。わかっているのは、しびれるような、めくるめくような幸せが欲しいだけ。それっていったいどこにあるの?

 

いや、経験あるけどね。「こんなに幸せでいいのかな」って思ったこと。でも熱が冷めれば、いろんなものが見えてくる。シゲタが京都に住む仕事のできない小説家気取りの男と自堕落な同棲に陥って、どん底になって消耗したみたいに、目が覚めればそんな「幸せ」は吹き飛んでしまう。あれにもこれにも目をつぶって全力疾走していたことに気付くからだ。めくるめくような幸せって、ものを見ず考えず、バカになるからこそ感じることのなのかもな。

©安野モヨコ/コルク

だいたい日本の教育って無茶を押しつけてると思う。若いうちは恋愛禁止で勉強しろとしか言われないのに、社会に出た途端に「活発に恋愛してさっさと結婚して子どもでも産みなさい」って言われる。経験のないことをいきなり上手にできるようになるわけないでしょう。

 

なんにも教えられないまま、いきなり大人になってさまようのが、シゲタみたいな女子たちなのだと思う。

 

昔の少女マンガの主人公たちはみんな、なにか一本ぶっとい柱を持っていた。何かの才能や活力に溢れて社会に反発する力。人を巻き込んで変えていく力。そして彼女たちは登場から終結まで、ずっと髪型すらも変えない。でもそれってぜんぜんリアルじゃない。中学生からアラサーになるまでずっと同じヘアスタイルなんて主人公もいるけど、もうちょっとおしゃれしようよ。でも彼女らには絶対曲がらない才能とポリシーがあるからいいのだ。たぶんあのヘアスタイルの固持はその表れなのだ。

 

シゲタは、男はもちろん仕事も服も髪型も、必要とあればどんどん変える。そうなんだよ、人生って、そんなに最初っから「あたしはこうだ」なんてわからないし「この人だ」なんて決められないし、髪型だっていろいろ試したい。そして一本筋が通ったフクちゃんですら、恋愛が理不尽に終わったことがある。頭で考えたからといってうまくいかないのが恋愛なのだ。

 

知らず知らずのうちに少女マンガから押しつけられてきた「優等生的女性像」に縛られてきた私たちに、『ハッピー・マニア』は「そんなことねえよ、迷って戦って失敗すればいいじゃん!」と教えてくれるんである。シゲタは、痛い恋愛を繰り返して、少しずつ恋愛を学んで、自分を知っていく。

©安野モヨコ/コルク

説教要素の強い作品って、お真面目に語られることが多いんだけど、どんな重たい話もサクッとコメディにしてるところが『ハッピー・マニア』のまたすごいところ。

 

でもね、ずっと思ってたんですよ。
「なんだ、なんだかんだラストは少女マンガ的展開にしやがって」
って。
どんなに恋に破れても、痛い目に遭っても「自分を一途に想ってくれるタカハシがいるならそれでいいじゃない!」って。

 

ところがこの夏、続編が出た。

 

後日談とかスピンオフなんて簡単なものじゃなくて、リアルな時間の経過が、作品の中にもちゃんと流れてて、20年後のシゲタとフクちゃんのお話。こんなリアルなマンガ、いままであったかな?

 

そしてそれは、やっぱり女の現実を突きつけるたいへんな展開。
なにそれ安野モヨコ先生、鬼なの?
やっぱり恋愛に夢はない感じ?

 

いや、でもきっとどこにでもある話。
たいていの「続編」って、無印の劣化版って感じだけど、この続編は、まったく違う光を放っているところがすごい。

 

とにかく、『ハッピー・マニア』はすごいんです。
言いたいことはそれだけだ!

ハッピー・マニア 1巻 (FEEL COMICS)
著者:安野モヨコ
出版社:祥伝社
販売日:2013-01-18
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