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 女の子は1人も登場しないのに、”少女”の気持ちが分かる少女マンガの名作――これがマンガ家、 吉田秋生氏の傑作のひとつ『BANANA FISH』です。 奥深く考えがいのある物語も、尊い人間の絆物語も華麗なアクションシーンもすべてがこの作品に込められています。アニメ化が公表されたこのタイミングをきっかけに、必読です。

 BANANA FISHは1986年に雑誌『別冊少女コミック』で連載が始まりました。単行本はコミックスで全19巻(プラス別巻で1巻)。真っ黄色の表紙が特徴です。ニューヨークを舞台に、都市の抱える闇とそこで光る人間同士の絆を描く作品。

 当時、まだ十代でほとんど海外旅行経験のなかった私にとって、マンガ家、成田美名子氏の『CIPHER』などとあわせ、米国やニューヨークというまだ知らぬ国を垣間見せてくれる一作でもありました。もちろんそれまで、身近な少女の成長や生活、恋愛を描くことが多かった少女マンガの世界に、ハードボイルドな冒険、華麗なアクションシーンを盛り込んだことも話題になりました。(冒険物語はそれなりにありましたが、アクションシーンが本格的にかっこよく描かれた作品はとにかく少なかった!!!)

 そんな作品が2018年に、アニメ化。正直、驚きと同時にうれしいです。しかも『PSYCHO―PASS サイコパス』や『坂道のアポロン』のアニメを生み出したノイタミナから。(詳細はこちら→http://bananafish.tv/

 悩みを抱えた日本人の少年、奥村英二がニューヨークを訪れ、ストリートキッズのアッシュと出会うところから物語がスタート。ベトナム戦争帰りの兵士がこぼした一言「BANANA FISH・・・」という言葉の謎を探るアッシュ。そして英二とともに国やマフィアが動く陰謀にまきこまれていく。最初は育った環境の違いから、ちぐはぐなやりとりをしますが、時間をともにすることではぐくまれる、魂の絆。この素敵な世界が映像になるのを待つのは楽しい。でも是非その前にマンガで読んでほしいーーということでいいところを訴えていこうとおもいます。

読むべきポイントその1 ハードロマンの物語

 物語の冒頭で登場する謎の薬「BANANA FISH」。それをめぐる、研究者の思惑に、そしてそれを手に入れようとする闇社会の住人ーー良質なハードボイルドの物語を読んでいるようなスピード感ある展開のなかで、科学の悪用、闇社会の住人が関わることの怖さがそこはかとなく漂います。当時の私がベトナム戦争を本当に知っていたのかは覚えていません。が、「薬でつぶれていったベトナム戦争の帰還兵」という描写から、なんともいえない戦争の負の側面を感じられました。

 アッシュの抱える、キッズポルノ出演という過去、銃が飛び交うストリートギャングの戦い、殺人など殺伐したシーンもありますが、だからこそ後述のアッシュと英二の絆の尊さが浮かび上がるのです。

 そしてまた終わり方が見事。私はいまだに、つらくて読み始めても途中でラストシーンを思い出して泣いてしまいます。そのあと数々のマンガや小説を読みましたがいまだにあのラストがハッピーエンドなのかバッドエンドなのか結論はでていません。ひたすらに物語が終わったあとも、2人がそして2人に関わる人が幸せなら、と思うだけです。

読むべきポイント2 心の底から理解しあえる相手が見つかる幸せ

 アッシュはIQ200の天才児という設定です。ストリートギャングの一団を率いながらも、「ほかの人と自分は違う」という思いを抱え、なかなか周りに心を許せない。もちろん、才能と容姿がゆえに、周りに利用されてきたという過去も影響しています。そこに異国の地、日本から現れたのが英二。銃が日常にない日本から来た少年と、暴力の隣で生きてきた少年の出会い。きっと現実社会なら袂を分かつと思います。が、そこは作り物のマンガの世界。ぶつかり合いながらも、英二はアッシュに、「どんなときでも傍にいる」と無償の愛を示す。お互いがお互いの理解者であることを気が付き、アッシュの魂が救われる過程を描き出します。

 「少女マンガとは何か」という疑問にはまだ結論が出ていないと思います。が、ほかのジャンルと比べたとき「男性も女性も自分の唯一の理解者を希求する」というところではないでしょうか。普段、人が心の底に隠そうとしている「一人ではさびしい」という思いを暴き出し、「自分の心の奥底を理解してくれる人がいるのは幸せだよね」と問いかける。

 BANANA FISHには女の子らしい女の子は登場しません。が、アッシュと英二の心の通い合わせ方からは、少女マンガがずっと描いてきた「唯一の、無償の愛を交わせる相手を見つける」という世界が見えてきます。「比翼の連理」「半身」とも呼べるような近い関係を築ける相手が生きている間に見つかるかもしれないー女の子は登場しないのに、少女が求めるものは描かれているという奇跡的な作品なのです。

 ちなみにアニメ化の発表後、インターネット上では「BANANA FISHはBL(ボーイズラブ)なのか、そうではないのか」というちょっとした話題が浮上しました。私自身もBLというジャンルを知ってから、BANANA FISHを読み直し、「もしかして・・・」と思うことがあります。確かに男女のカップルの親密な関係を描く少女マンガに、「男性同士の絆」という概念を全面的に展開したことでも、BANANA FISHの意味は大きかったと思います。

 しかし今の段階では断言できません。作者はそう思って書いていないだろうというのが大きな理由。まるでお互いのすべてを理解し合っているかのような親密な関係を描いており、女性がけして入れない、誰にも崩せない強いつながりを描いた結果がBANANA FISHのアッシュと英二の関係で、もちろんここから読者がBL的妄想を膨らますことは止められるものではありません。しかし二人の関係が「恋愛的な意味での愛」とは明確に示されていないので、BLかどうか断言しにくいと思っています。逆にこの2人の何の名前もつけようがない、つけようと思ってもつけられない関係が尊さを高めています。

読むべきポイント3 華麗なアクションシーン
 華麗なアクションシーンもポイントです。特にアッシュの戦いは、踊るようななめらかな動きでありながら、きちんと人を殺すこと、倒すことの苦しさまで描かれます。

 絵柄の変化にも注目を。もともと吉田さんの絵の線は、マンガ家、大友克洋紙に似ていたのですが、BANANA FISHの途中で、いまのすらりとした線に近づいてきます。個人的には後半のすらりとした線で描かれるバトルシーンのほうが好き。必死で生きようとしながらも、なんともいえない儚さを感じさせるからです。

 しかもいまの一部の連載作品と違い、むやみに連載を引き延ばすことはありませんでした。単行本で全19巻(プラス別巻で1巻)でみとごに物語は完結しました。けしてマンガ好きが読めきれない巻数ではないでしょう。

 BANANA FISHはアクションシーンがあること、ベトナム戦争やキッズポルノといった社会問題を扱っていることから「少女マンガに慣れない男性読者にお勧めできる作品」としてよく名前があがります。でもそれだけを目当てに読むのはもったいない。ぜひアッシュと英二の関係にも目を向けていただき、骨太の物語を楽しむと同時に「周囲にはこういう親密な人間関係を求める人もいるのだな」という思いを巡らせてもらえれば幸いです。

 

 

 

BANANA FISH(1) BANANA FISH (フラワーコミックス)
著者:吉田秋生
出版社:小学館
販売日:2012-09-25
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