TOP > 黒板を爪でけずるようなザラザラ感が味わえる。『血の...

 

今、一押しのマンガ家は誰かと言えば、押見修造だと僕は答える。

 

 

ヤングマガジンで『デビルエクスタシー』というマンガを連載していたときからのファンだ。『デビルエクスタシー』は、大型風俗店の店員が実はみんな悪魔で、人間から精力を抜き取っているのだけど、主人公はそこの風俗嬢と恋に落ちてという、ちょっと変わった設定だった。

『惡の華』くらいから、人間の内面を描くことに強いこだわりをみせるようになって、僕はどんどん好きになっていった。

稲中以降の古谷実を好きな人は、押見修造を好きになる。

 

 

そして、最新作『血の轍』で、押見修造の才能は、大きく開花しようとしている。

本当にすごいマンガとは、あらすじがシンプルである、というのが僕の持論だ。『スラムダンク』は、桜木花道がバスケにはまり強くなるまで、とあらすじは極端にシンプルに説明できる。

そして、『血の轍』も、過保護な母親と息子の関係を描いている、というシンプルなあらすじだ。

面白い物語は、設定ではなく、演出で読ませる。そして、『血の轍』は、演出で読ませるマンガだ。マンガなのに、嫌な効果音が鳴り続けていて、このあと怖いシーンが待っていることが約束されているホラー映画みたいな読み心地だ。ずっと黒板を爪でこすっている嫌な音がしているような感じがするとも言える。

1巻の最後には、嫌なエピソードが出てくる。しかし、それまで普通の家庭を描いているようで、どこか普通じゃない。その状態の時に、ずっと不穏な空気がしていて、読みながら心がザワザワする。

この空気を描くということが、普通はできない。できるマンガ家はほとんどいない。押見さんは、今回の作品をきっかけに空気の描き方を身につけた。今作の行方もすごく楽しみなのだけれども、押見修造という作家自体がどんな作品を描いていくのかも、一気に興味深くなった。

 

 

主人公の男の子・静一は、ノーベル文学賞とったカズオ・イシグロの『日の名残』の執事のように、信頼のできない語り手でもある。母の静子だけが狂っているわけではない。息子も共犯者ではある。今後、彼は、自分の見たものをすべて素直に語るのか?

また、しげるが、「おばちゃん?」と言ったときの静子の顔はどんな顔をしているのだろうか?読者は、その顔を見ることはない。最後まで行く途中でそれを描くことがあるのか、それとも描かずに終わるのか?

しかし、静一は、一緒に生活をする中で、確実にその顔を見ているはずである。その顔を見たことがある静一は、どのように考えているのだろう?

人間の闇、というよりも、歪みを描きながら、その歪みを否定せず、その歪みも含めて、人間として受け止め、描いている所が押見修造という作家の魅力だ。

 

 

画力もどんどん上がっていっている。このゾワゾワ感をどう表現していいのか悩ましいが、楽しみである。

 

 

血の轍 1 (ビッグコミックス)
著者:押見 修造
出版社:小学館
販売日:2017-09-08
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