TOP > 夢と情熱を武器に戦った漫画『ノルマンディーひみつ倶...

『ノルマンディーひみつ倶楽部』(いとうみきお著、集英社)をご存知だろうか。少年ジャンプに『ONE PIECE』の連載が始まったのが1997年。その3年後に連載が始まり、11ヶ月で打ち切りになったマンガである。

 

最も強く影響を受けたマンガの一つであり、今でもたまに読み返すことがある。細かな記憶はないが、1巻だけは2刷だが、以降は初版で購入しているので、当時は発売日をチェックして書店に買いに行っていたようだ。高校を卒業し、浪人生活をしている頃であった。

 

この『ノルマンディーひみつ倶楽部』をお勧めしたいのだが、正直言って誰が読んでも面白いマンガであるかどうかは自信がない。

 

読んで頂ければわかるはずだ。絵には魅力があるが、どことなく雑な部分も見受けられる。何より、シーンの描写はわかりづらい。女子高生が階段から転落し、それを教師が受け止めるシーンがある。どこをどう走って、どうやってぶつかって、どうして階段の下に落ちたのかがよくわからない。後ろから追いかけていたはずの教師が、階段の下に回り込んでいて、落ちてくる女子高生を受け止めるのである。このシーンでの人物の配置が未だにわからないのだ。何十回も読んでいるのに!!

 

ストーリーも決して精緻なものとは言えない。漫画家を目指している高校生が、ライバル達と争いながら、漫画雑誌の編集部へと原稿を持っていく話なのである。そう、後に『バクマン。』でも扱われたテーマである。比べてみるとわかるが、ストーリーの組み方がまるで違う。『バクマン。』は、結末までのストーリーを組み上げた上で、逆算して作られている(少なくともそのように思えるくらい整合性が高い)のに対して、『ノルマンディーひみつ倶楽部』は行き当たりばったりである。

 

主人公が漫画家を目指す動機もよくわからないし、漫画家として才能を持った若者であるかもわからない。個性的な仲間もいるが、主人公の成長に寄与することは稀である。しっかりとしたストーリーを組むのであれば、仲間一人ひとりに成長課題を持たせて、仲間との交流を深めることによって成長が得られていくように、計算することだろう。魅力的な仲間はたくさんいるのだが、一部の重要人物を除いて、魅力が高いという以上の貢献をすることもない。

 

高校が舞台なのだからラブロマンスを展開するのが王道というものであろうが、どういうわけか主人公の踝炉暖(くるぶしろだん)には最初から可愛い彼女がいるのである。漫画家を目指すという夢を彼女に悟られ、別れを告げられるところから物語が始まる。

 

いとう先生、いいじゃないですか。夢を目指す主人公に憧れる可愛い女の子を何人か作って、その子達が争うようにお色気アピールしてくるようにしてもいいじゃないですか。いちごパンツを履かせて、時々パンチラを描いたら良かったじゃないか。漫画好きの仲間とそんなことを語ったこともある。

 

マンガの世界にも、売れるための方程式というのはおそらくあるだろう。しかし、『ノルマンディーひみつ倶楽部』は、その方程式から外れたことばかりやっている漫画のように思える。挙句の果てに、高校生の主人公は作中で飲酒までするのである。今の時代にやったらきっと怒られることだろう。

 

だから、説明するのが難しいのだ。

どうしてこれほど愛しているのかを

 

『ノルマンディーひみつ倶楽部』は11ヶ月も続いたのが奇跡だと言われることすらある。その理由はとてもよくわかる。ぼくはとても好きだけど、この作品がずっと続いていくものになったとはどうしても思えないのだ。

 

しかしながら、これほど強く心を動かされた漫画はないのも事実なのだ。漫画家いとうみきおの武器は、情熱であった。

 

あまりネタバレはせずに書きたいところではあるが、17年も前の漫画でもあるので、1話だけ少し筋を追わせて欲しい。

 

主人公の炉暖は、友達や恋人の桜子に、漫画家になるという夢を笑わる。結果、恥ずかしさを感じて夢を隠すようになる。周囲の目がどうしても気になってしまうのだ。そんなときに出会ったのが、漫画部倶楽部(クラブマングース)の部長、蕪木青春。青春は、漫画家になるという自分の夢を隠そうとしない。

 

「何を恥ずかしがることがある!?自分の好きなことなんだ 胸を張って言ってやればいい それが青春だぜ」

 

そして、校舎の屋上から大声で叫ぶ。

 

「俺は漫画が大好きだ!!BY蕪木青春!!」

 

空気が読めない部長にドン引きしながらも、漫画倶楽部の部室を訪ねてことになった炉暖。そこで、花咲乙女という美少女に出会って勢いで入部してしまう(でも炉暖には彼女がいるから、本格的に恋することが出来ないんだ!!なんで彼女持ちという設定なんだ!!)。

 

細かい部分はネタバレを最小限にするためにざっくりと書くが、炉暖に試練の時が訪れるとになった。漫画家になる夢を諦めようかという瀬戸際である。夢を追いかけ続ける青春をはじめとした漫画倶楽部の面々のもとを去り、家路に向かう炉暖。

 

その途中で、自らに語りかける。

 

「俺の手はまだ動く」

 

炉暖は走り始める。

 

「俺は自分で選んだ漫画描き(マングース)という道なのに あの人達の同類にみられやしないかと周りの目ばかり気にしていた けど あの人達は他人の目なんか気にしてないんだ!!」

 

「自信があるからじゃない 鈍感だからでもない ただ好きなことに純粋だから!!」

 

「それにくらべて 自分の夢なのに胸を張って誇れないなんて…… 俺には夢を語る資格なんてない」

 

息を切らせて辿り着いた先には、漫画倶楽部の面々が、夢を探していた。戻ってきた炉壇に視線が集まる。そこで炉暖は叫ぶ。

 

「俺は日本中を感動の渦に巻き込む男!!日本中が俺の作品を待っているんだ!!その俺がこんなところで諦めるわけがないだろ!!俺は漫画が大好きだ!!踝炉暖!!」

 

涙を浮かべて絶叫する炉暖に向かって、部長の青春は言う。

 

「そう 俺達は諦めない だから夢を見る権利がある」

 

この日から、漫画描き(マングース)たちのドタバタ青春劇の幕が上がることになる。先述したように、粗は目立つ漫画となっている。しかし、たまらなく面白いのだ。くだらないギャグでも、ありきたりな展開でも、楽しくて楽しくてしょうがなく思えるのだ。多分、ぼくは第一話を読んだ時点で、この物語を愛してしまったのだろう。

 

誰が何と言おうと周りを気にすることなく、自分を信じていれば、勝利はついてくるのである。

 

この物語を初めて読んだのは19歳の時であった。そして、作家になるという夢を公言し始めたのはそれから数年後であっただろうか。恥ずかしいこととは思わなかった。むしろ誇らしいことだと思えた。そう思えたのは紛れもなく炉暖や青春のおかげだ。

 

漫画家いとうみきおの次回作『グラナダ -究極科学探検隊-』は、すぐに打ち切りになってしまった。大好きな漫画家の作品で、とても面白かったのに何が悪かったんだチクショー!と当時は思ったものだ。その後『謎の村雨くん』を連載し、それも短く終わった後は短編をいくつか書くだけになったようだ。

 

勝ちか負けかというと負けだったのかもしれない。売れたのか売れてないのかでいうと、それほど売れたとは思えない。しかし、これだけは強く言いたい。浪人生活中で不安を抱えた19歳の若者を励ました作品であったのだ。そして、その後、自分の夢を見つけ、それを人前でも堂々と発し、今は作家として夢の舞台で戦えるようになったのだ。

 

少なくとも一人の人間を救い、奮い立たせ、夢に向かって戦わせる力となった作品なのである。

 

しつこいようだが『ノルマンディーひみつ倶楽部』は、決して優れた作品だとは思わない。しかし、ジャンプという夢の舞台を全力で堂々と戦い抜いた記録であり、作品内のうまくいっていないところも含めて、学びに溢れた本とも言える。そして何よりも、ぼくが読んだ中で、これほどストレートに、これほど純粋に、これほど威力のあるメッセージを投げかけて来た漫画はなかった。色々なものが足りていない漫画ではあったが、著者の情熱だけは両手から溢れるほどであった。

 

やりたい事がみつからない人、やりたいことがあるけど向き合えずにいる人には是非呼んで欲しい。いや、この世の迷えるすべての若者にお勧めしたい。そして、この本の最後の1ページまで読んで欲しい。

夢を追うことの楽しさがきっとわかってもらえるはずだ。あるいは思い出せるはずだ。

 

夢は恥ではないのだ!!

 

 

 

 

 

ノルマンディーひみつ倶楽部 1 (ジャンプコミックス)
著者:いとう みきお
出版社:集英社
  • Amazon
▶マンガがお得に買えちゃう情報満載!

人気のコメント

新着コメント

内容は忘れてしまったけれど、面白かったことはおぼえている。

ログインして
すべての人気のコメントを見る

ご自身のTwitter、Facebookにも同時に投稿できます。

《マンガ新聞》公式レビュアーの方はログイン
 ※新規ゲストのログイン機能は準備中となります

利用開始をもって
《利用規約》《個人情報の取扱について》
同意したものとみなします。
ログインメニューに戻る
ログインメニューに戻る
パスワードを忘れた方は
《パスワード再設定》を行って下さい。
ログインメニューに戻る