TOP > マンガ新聞レビュー部 > 『酔うと化け物になる父がつらい』嫌いなのに、いつで...

私には、12歳のとき、一度私を捨てた母がいます。
スナックのママをしていた母もまた、これから紹介する作品の中の「お父さん」と同様に
酒を飲み、夜中に帰ってきては寝ている私を起こし、意味不明のことを言う”話が通じない化け物”でした。


私も母が大嫌いで、けど大好きで、母のことを想っては様々な感情が溢れ出して、今でも夜たまに泣いたりして。
他人にはわからないかもしれない、親子の関係がそこにはあるのだと思います。


そんな私だからかもしれないけれど、読んでる最中苦しくて泣いて、最後のページで泣き止んだ一作を紹介します。

©︎菊池真理子(秋田書店)2017


【あらすじ】 
この作品『酔うと化け物になる父がつらい』は作者:菊池真理子さんのノンフィクションエッセイです。
アル中の父と、宗教を信仰する母、3つ下の妹。
幼少時代から現在に渡り、作者が父と向き合ってきた人生が描かれています。


第一話は作者の幼少時代~中学生になるまでのお話。
冒頭1ページはこちらです。
 

©︎菊池真理子(秋田書店)2017


酒に弱く、休日は友人と朝まで麻雀をして「明日プールに行く」といった約束すら守ったことのない父。
幼い頃の主人公は「だから飲まないでって言ったのに!」と怒るも、
そんな言葉は酔っ払いには通じず、逆にお母さんに「大人には飲む理由があるんだから」と言われる始末。


お酒を飲む理由ってなんなのでしょう?
23になり、お酒を嗜むようになった私ですら未だに理解できないことを、子どもが理解できるわけがないと思います。


普段は”フツウ”のお父さん。
(昨日の朝のお父さん帰ってきて)
と願いながら、酒が入った父の豹変ぶりに、
母を置いて逃げていた主人公は、お酒のでてこない夢の世界であるマンガを描いて過ごします。


しかし段々母は追い詰められ、一話の最後、作者が中学生のころ。
母は首を吊って死んでしまいます。

©︎菊池真理子(秋田書店)2017

母が死んだ直後、酒を飲まずに帰るようになった父。
あらゆる感情を抱きつつ、ようやく普通の家庭になるのかもしれない…
と思ったのもつかの間、一ヶ月も経たずに元の生活に戻るように。


幼い頃から積み重ねてきた、約束を破られるという裏切り。
母の死という大きな出来事によって、今度こそは変わるかもしれない…。
そんな最後の期待ですら、待ち受けていた現実はやっぱりこれなのです。


ろくに焦点のあっていない父に対する、主人公の言葉はなんなのか。

©︎菊池真理子(秋田書店)2017

「もう飲まないでね」


怒涛の一話二話から始まり、主人公が成長し、社会人になり、変わらないまま老いていく父との生活を描いた物語。
就職・結婚・出産、人生の節目節目でやってくる”問題”に、
悩み苦しむ姿がリアルで、似たような境遇だった私は読んでいて本当に苦しかったです。


そしてたどり着いた結末は、ある意味で私にとって、
ひとつの答えを目の当たりにしたかのような感情がありました。


十人が読めば十通りの感想があるかと思います。
私はこの作品を「面白いから」という理由で勧めたいわけじゃありません。
このような作品がある、ということを知ってほしい、そして一度他の人に読んでみてほしいから紹介させていただきました。



ここからは私のこの作品に対する感想を話したいと思います。
もう一度いいます、本当に苦しかった。
ここまで心に刺さった作品は久々でした、なぜなら毎日泣いて暮らした幼少期を思い返したからです。

 

 母の自殺行動に対して主人公が抱いた、2つの感情

・私は母に捨てられた
・私が逃げたから母は死んだ


話の冒頭で「私には、12歳のとき、一度私を捨てた母がいます。」と言いました。


2歳の時に両親が離婚、母子家庭になるも母は夜の仕事を始めたため、私はほとんど祖母と一緒に暮らしていました。
祖母も離婚していたので、同じマンションの3階に私と祖母、6階に母ひとり暮らし。
というなんとも奇妙な家庭を中学まで続けていたのですが、母も女。
若かったので彼氏を作っては揉め、酔っ払っては迷惑をかけ…DVやら不倫やら本当に色々ありました。


特にお酒がひどかった。
ある晩、酔っていて話の通じない母に苛立ち、手を上げた当時の彼氏を前にして、
とっさに身体が反応し、私が代わりに殴られたこともあります。


人生初、男の拳。超痛い。じわ…と溢れる涙。口に広がる鉄の味。
なんとかその場を乗り切るも、翌日母は何も覚えていなくて、ただ顔は青あざだらけで。


お酒って、本当にクソだ。と心底思いました。
彼氏に娘が殴られようが、自分が殴られようが覚えちゃいない。
記憶はあるのかもしれないけど、なぜ?いつ?までの詳細がわからないから、同じことを何度も繰り返す。


けれど状況は悪化していく一方で、生活もうまく立ち行かなくなってきて、
母が取った行動は………失踪。


家に行くと机の上には
「ママらしいこと、してあげられなくてごめんね。」という手紙と、カミソリと血痕。


捨てられた、と思いました。
なんやねん、と。本当にクソだ。そのとおりだ。と。


でも泣きながら必死で警察に駆け込んで、どうにか見つけて、
「二度とこんなことしないで」と抱きついてわんわん泣いた日を思い出しました。


そしてなぜか、自分を責めるのです。
母を助けてあげられなかった自分が悪いんだ、と。


『酔うと化け物になる父がつらい』の状況とは違うかもしれませんが、
「死ぬ」=「捨てられる」という考えに行き着くことに共感して、一話が終わる頃にはすでにもう私は泣いていました。


なんでなんだろう、自分でもわからないんですけどね。


お酒は人を狂わせるときもあるんです。本人も、周りもすべて。
なのにそんな状況(作中で言う作者の母の死や、私の経験で言う母の自殺未遂・自分も娘も殴られる)になっても、
お酒を飲む本人は、やめない。変わらない。変われない。


その現実を受け入れるしかない状況が、本当に切実に描かれているからこそ、
わたしにとっては目が離せない作品でした。

 

また、この作品内ではところどころ作者の
「自身の生に対する否定」や「通常とはずれている、と思う価値観」が出てきます。


例えば子どもの話。

©︎菊池真理子(秋田書店)2017
©︎菊池真理子(秋田書店)2017

子どもを産み、母になりたいという友人の言葉に
(この人たちどれだけ自分が好きなの)と思ってしまいます。


突き詰めると、自分の遺伝子、父の遺伝子を遺したくないから
子どもという言葉に拒否反応が出てしまうのだ、という結論に至るシーンを見て、
私も同じことを考えていた時期を思い出しました。


DVを受けた子どもは、将来自分の子どもに同じことをする可能性が
一般と比べて高い、だとかの話を聞いたことがあります。
(本当なのかどうかはわからないのですが、この話を聞いてからずっと忘れられず、
 こうしてことあるごとに思い出します。)


子どもができたとしても、愛された記憶が無いから愛せる自信がない。
私はそう思っていました。


ひとつ考えている自己分析があるのですが、
幼少期、自分を叱ってくれる人・褒めてくれる人・周囲と比べてくれる人がいなかったから、
自分のなかの尺度が狂ってしまったのではないか、と思います。


だから昔の私は、異常なほどまでに自分に自信がありませんでした。
自己嫌悪の塊で、親が嫌いで許せない、そんな自分が大嫌いで許せない。
こんな親なんて、こんな私なんて………
という考えから抜け出せなくて
あらゆるところで弊害が出てくるのです。



けれど作中でも描かれているように、段々社会に出て認められたりしていく中で、
心が育ち、今では私自身の考えも変わってきました。
同じ状況ではないと思うのですが、この作品内でも考え方の変化や、
それによって主人公が取る行動の変化が描かれていきます。


行動の変化が、必ずしも良いことばかりではないのですが、
それもまた人間らしくて、深くて、とにかく”結末がどうなるのかを見届けたい”作品です。

 

『酔うと化け物になる父がつらい』
もしかしたら、この作品に似た状況の方が世の中には多くいらっしゃるのかもしれません。
私もその中の一人です。


様々な形で、向き合うことになると思うのですが…
わたしはこの作品を単に「お酒ってほんとやだよね」の一言で
終わるものだとはどうしても思えなくて。


何かの問題に直面したとき、
どのような考えを持ち、どのような行動を取り、結果どうなるのか、の
答えのうちの一つとして、知ってほしい。


ちなみに私もお酒を飲みますし、母は相変わらずですが
昔に比べると全然マシになってきていると思います。
夜の仕事なので飲まざるを得ない状況もあるんだ…だとかを自分に言い聞かせつつ、
私の場合は離れて暮らすことが、いい意味でバランスを取れる一つの答えとなっています。


ではこの作品の最後はいったいどうなるのか。
ぜひ、その目で確かめてみてください。 


レビュアー:マンガHONZ編集部 駒村(@koma_ja

 

酔うと化け物になる父がつらい(書籍扱いコミックス)
著者:菊池 真理子
出版社:秋田書店
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