TOP > マンガ新聞レビュー部 > 高齢社会の行き先はデストピア 『浅野いにお短編集 ...

 

総理「今後我が国は、キープ・ヤングを原則に行政を改革していきます。」

 

高齢化と少子化が深刻化する国家において、年金受給開始は引き上げられるも財政は圧迫される。

高齢者が分散居住している市区町村は財政破綻。全国主要都市では高齢者特区がしかれ、5万人以上の高齢者が暮らす複合型介護施設を作り、ワンストップでサービスの充実化と合理化を両立させる。

 

社会にあった長く生きられた方々への敬意は「老害」という言葉に置き換わり、国の持続可能性を維持するため、希少財となった若者や子どもを最優先の存在と格付けする。そんな高齢社会の行き先はデストピア。

 

『浅野いにお短編集 ばけものれっちゃん/きのこたけのこ』に描かれる短編「TEMPEST」は、「そんな社会になるわけないだろ」と思いながらも、心のどこかでもしかしたらそうなってしまうのではないか、という不安を掻き立てる。

 

人権すらはく奪される高齢者を見ながら、これは遠くない未来に自分もたどりつく場所なのではないかという疑念がぬぐえない。それでも思うのは、ここに描かれる“ばかげた”法律や政策が通るような社会であるわけがないと。

 

総理「あなたが思っている以上に日本の未来はシリアスです。倫理や道徳は時代によって変化してゆくものですよ。国民の皆様が安心・安全、そして納得出来る生活のために。貴重な若年層への思いやりの気持ちを持って。どうぞご理解ください。」

 

85歳から5年間、「最後期高齢者」と名付けられた世代は、最高の医療サービスを受けながら、三つの進路を選択しなければならない。

 

[1]90歳の誕生日に実施される「老人検定」に合格し、国民の模範として生活する
[2]自死サービス
[3]人権をはく奪され特区からも放り出される。すべての行政サービスが利用できず、金銭所持や公共交通機関の使用もできない

 

本書「TEMPEST」では、さまざまな老人が登場する(介護施設で行為に及び、職員に性行為室に行くように諭されるなど)が、人間は尊厳や自尊心で生きるものであり、「生かされること」には耐えられない存在であることがわかる。

 

もちろん、最後期高齢者に該当する年齢として、判断や意思決定が難しくなっていることもあるが、それでも最後まで「生きるとは何か」を問い、自分の意志で「生きる」を選択する存在であるのだ。

 

 

ある男性は、500問を全問正解しなければらない老人検定に合格できるも不合格を選び、自死サービスも使わない。それは[3]を選んだのではなく、誰かに与えられた人生を選ばない、自分の人生を選ぶ結果、人権をはく奪され、路上に放り出される。

 

そして。

 

本書「TEMPEST」のデストピアはここで終わらない。最後の数ページに完全なるデストピアが迫ってくる。エンディングで読み手の恐怖は最大化される。

 

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