TOP > マンガ新聞レビュー部 > 「警察は(冤罪がわからないほど)バカなんですか?」...

世間には「ミステリー」というカテゴリーのドラマや映画、小説があふれています。
マンガの世界でもそうですよね。

 

『名探偵コナン』
『金田一少年の事件簿』
『Q.E.D. 証明終了』
『C.M.B. 森羅博物館の事件目録』

 

などなど、有名な作品がいくつも存在します。

 

ミステリーの主人公は頭脳が明晰で、難事件を次々に解決しますが、その反面性格に問題がある人が多いようです。
名探偵の代名詞とも言えるシャーロック・ホームズは、女嫌いのジャンキーで「脳の容量には限りがあるので、人生に必要ないことは記憶しない」と豪語する変人でした。

 

「脳の一部分が極端に優れている人は、性格上の何かが欠落している」という法則は、ミステリーファンにとってしっくりする部分があるのかもしれません。キャラも立つし。

 

そんな変人ひしめくミステリー界に、また一人とびきりの変人が登場しました!

それが本作の主人公、久能 整(くのう ととのう)です。

 

一人暮らしの大学生である彼は、殺人事件の容疑で警察に呼び出されます。

ここからは刑事ものお決まりの取調べターンが始まるわけですが……。

 

殺された学生と彼が言い争うところを目撃されていた、という刑事に対して

 

「皆さんはその目撃者の人を よく知ってるんですか」

「えっ そんなわけないだろう 善意の第三者だよ」

「じゃあ 僕と立場は同じですよね
 皆さんがよく知らない人物」

「それなのにどうして その人が本当のことを言っていて
 僕のほうがウソをついているって 思えるんですか」

 

……あれ、なんかコイツ、めんどくさいぞ。

 

「君はなかなか落ち着いてるな 殺人の疑いをかけられてるのに」

「何もしてませんから」
「何もしてない僕を
 冤罪に落とし込むほど
 警察はバカじゃないと 思ってますから」

「それともバカなんですか」

 

平坦な表情のまま、静かに牙を剥く整くん。

ちょっと圧せば自白するだろう、くらいに考えていた老練な刑事たちも、ようやく彼が「只者でない」ことに気づきます。

 

こうして、一容疑者であるはずの彼は、次第に取調室の空気を支配していきます。
取調べを受けている側のはずが、いつの間にか刑事たちの抱えている問題を聞きだしていたりして。
最後には取調室を一歩も動かずに真犯人をつきとめてしまいます。


本作のポイント1「洗練されたワンシチュエーションドラマ」

 

最初のエピソードは上でも書いたように、取調室の中だけで物語が進行します。

限定された場所と登場人物だけで話が進むのに緊張感が途切れないのは、物語の構成に無駄がなくセリフのやり取りが魅力的だからです。

 

本作のポイント2「曲者だらけのキャラクターたち」

 

まずは主人公の整くん。大学生であることはわかっていますが、なぜかそれ以外の情報が明かされません。

エピソードの中で、少しずつその断片が明かされていくのですが……のんびりした見た目と裏腹に意外とヘビーな過去がありそう。

2つ目のエピソードでは、頭の切れる謎の美青年が出てくるんですが、彼と整くんの掛け合いがすごく良いです。

3つ目のエピソードに出てくる少女もなかなか曲者で「あの」整くんを色々ふりまわします。

 

本作のポイント3「繰り出される”整くん語録”の説得力がすごい」

 

何といってもコレ!時と場所を考えずに語っちゃう整くんの言葉は、人の心の中の「思い込み」を破壊していきます。

 

娘が自分を「臭い」「汚い」と嫌い出したことをぼやく刑事(乙部)に、それは生物の遺伝子が劣化を防ぐための信号を出している、という説があることを告げる整くん。

 

「これがいくつになっても父親べったりで
 お父さんのお嫁さんになりたいとか
 母親べったりの息子とかだったら
 そっちのほうが失敗なんです」

「これを寂しいと思う乙部さんは
 ちゃんとお子さんと向かい合ってきたんだと思います」

「乙部さんの育て方は間違ってない
 娘さんはちゃんと大人になろうとしてる
 そういうこれ いい話です」

 

どれだけ虚言を尽くしても真実は一つだ、と言う刑事(青砥)に、ウソを言わなくても各自が自分の思い込みを主張すれば矛盾が生じると指摘する整くん。

 

「だからね青砥さん 真実は一つじゃない 2つや3つでもない」

「真実は 人の数だけあるんですよ でも事実は一つです」

「警察が調べるのはそこです 人の真実なんかじゃない」

 

ナイフで脅しながら、どうして人を殺しちゃいけないんだと聞く男に、いけないってことはないですよと告げる整くん。

 

「秩序ある平和で 安定した社会を作るために 便宜上そうなってるだけです」

「実際 今も殺しまくってる場所は世界中にある
 あなたも(人殺しがしたいなら)そういう所に行ったらいいと思います」

「ただし そういう所では あなたもさくっと殺されます」

「あなたが今殺されないでいるのは ここにいるのが秩序を重んじる側の人たちだからです」

 

「常識」だと思っていた事の矛盾が剥がれていく爽快感!
事件の真相も結局はこうした「思い込み」の中に隠れているのです。


それを言葉の力によって解き明かしていく点が、本作の最大の魅力といえます。

 

 

本作は現在(2018年11月)コミックス3巻まで発売中!

 

1巻では殺人事件の容疑者にされた最初のエピソード
1~2巻で連続生き埋め殺人事件にまつわる2番目のエピソード
2~3巻では資産家の遺産をめぐる相続争いに巻き込まれる3番目のエピソードが描かれています。

 

ミステリと言う勿れ(1) (フラワーコミックスα)
著者:田村由美
出版社:小学館
販売日:2018-01-29
ミステリと言う勿れ(2) (フラワーコミックスα)
著者:田村由美
出版社:小学館
販売日:2018-05-25
ミステリと言う勿れ(3) (フラワーコミックスα)
著者:田村由美
出版社:小学館
販売日:2018-10-26

 

本作の作者は、長編SFマンガ『BASARA』『7SEED』を手がけた田村由美さんですが
これだけしっかり作られた作品に『ミステリと言う勿れ』と名づける作者も、相当ひねくれものだと思います。

 

最後は、彼の推理を聞きたがる刑事に整くんが告げた言葉で終わりにしたいと思います。

 

「僕はただの学生で
 探偵でもその助手でもないですよ
 刑事でも検事でもないし
 検視官でも 科捜研でもないし
 弁護士でも
 ルポライターでも
 作家でも
 カメラマンでも
 大学教授でも
 陰陽師でも
 プロファイラーでも
 家政婦さんでも
 塀の中の有名な殺人鬼でもないんですよ」

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