TOP > マンガ新聞レビュー部 > “世界の終わり”で本を読む君と僕——物語の終末への...

今年の1月22日、「西の善き魔女」が死んだ。
物語の語り手が死に絶え、物語の読み手が死に絶え……ヒトがいなくなったセカイで本は——物語はどうなるのだろう。
少なからずショックで、そんなことを僕は少し考えた。

 

稚気に満ちた夢想かもしれないけれど、物語を編む意味が切実に問われる終末。
そんな“世界の終わり”を真摯に掬いとってみせたのが、森泉岳土さんの『セリー』だった。

 

セリー (ビームコミックス)
著者:森泉 岳土
出版社:KADOKAWA / エンターブレイン
販売日:2018-09-12

 

世界の終わりで本を読むふたり

カケルさんは
どうして ここに
留まっているんですか?

 

備蓄もある

 

壁も屋根も
自家発電もある

 

なによりきみが
いてくれるからね

 

物語に現れるのは、カケルと呼ばれる男性と、セリ—と呼ばれる女性。
屋内でテーブルを挟んで会話するふたりだが、食事を摂っているのはカケルだけ。
セリ—はアンドロイドだった。

 

膨大な本が配架された書庫を抱えるその屋内で、セリーは毎日カケルに本を読み聞かせる。

 

その日、セリーが手にしたのは『パワー 西のはての年代記Ⅲ』(ル=グウィン)。
殺風景な屋内で静かに呼吸するふたりを背景に、本の引用がコマによって切り取られてゆく。

 

本を読み終えたとき、セリーはカケルに問うた。

 

カケルさん

 

わたしたち
ここから出られなくなって——

 

外と音信不通になって
だいぶ経ちます

 

この世界
まだ

 

カケルさんの
ほかに生きている人
いるんでしょうか?

 

ふたりは世界の終わりにいた。

 

シェヘラザードのために

そこは人類が滅亡したかもしれない世界だった。
備蓄にも、自家発電にも限界がある。
ふたりはゆっくりと、穏やかに、世界の終わりを迎えようとしていた。
やがて、セリーにエラーが発生し、彼女は目が見えなくなってしまう——

 

森泉さんは「水で描き、そこに墨を落とし、細かいところは爪楊枝や割り箸を使ってマンガを描く」という執筆スタイルを取る。

 

「な、なんでそんな方法思いついちゃったんですか……」と不思議でたまらないけれど、その執筆方法がマンガに唯一無二の質感を生む。
こちらに森泉さんの執筆スタイルがまとめられています)

 

 

アーシュラ・K・ル=グウィン、ジャック・ロンドン、トーベ・ヤンソン……死者たちが紡いだ物語が日本語へと翻訳され、デザイナーの手によりカタチを成した実際に存在する「本」が、この作品には登場する。

 

輪郭が滲む柔らかな線で描かれる作品世界のリアリティは、実在する本を手に取るセリーの朗読の声——引用されるフィクションと混濁し、やがて無音へと至る世界がときに温かく、ときに寂しく演出される。

 

ヒトの——カケルの眠りに向けて、シェヘラザードのごとくこの惑星の記憶を読み語るセリー。

 

最後に本が読まれる瞬間へと、物語は向かう。
ヒトがいなくなった終末に、ヒトが紡いできた物語が残すものはあるのか……本書はそんな最果ての景色を叙情的に思考実験してみせるのだ。

 

カケルとセリー、そして物語たちが行きつく最果ての風景を、ぜひ見つめてもらいたい。

 

文=マルモ(星海社)

 

セリー (ビームコミックス)
著者:森泉 岳土
出版社:KADOKAWA / エンターブレイン
販売日:2018-09-12

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