TOP > マンガ新聞レビュー部 > 『この世界の片隅に』以上の名作?同作者の『夕凪の街...

私の大叔母(祖母の妹)は広島にいます。今年101歳。

あと何度会えるかわからないので、この7月に会いに行きました。

大叔母は終戦時には広島市にはおらず郊外に疎開していたそうですが、彼女のだんな様は市内で被爆したのだそうです。

 

そんな話を、バックパッカーズで同室になったカナダ人女子と話していました。

彼女は2週間ほど日本を旅行しているそうです。なぜ広島に来たのか理由を聞いてみると「歴史と近代化のバランスがいいこと、戦争の博物館を見てみたかった」と言います。

そして「アメリカやロシア、北朝鮮が核で争うのはナンセンスよ!」と言って、原爆資料館で見たものを熱く語っていました。

彼女には、ぜひ自国に戻ってからもその目で見たものや感じたことを周囲に伝えて欲しい。

 

ドラマ『この世界の片隅に』が話題ですね。

 

 

日本人にとって1945年8月6日は、忘れられない日です。恐らく、アメリカ人にとっての7月4日みたいな。

 

この原作マンガもとても名作だと思うのですが、もうひとつ、心揺さぶられた作品があります。

同じ作者、こうの史代さんの『夕凪の街 桜の国』のなかの短編『夕凪の街』です。

 

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)
著者:こうの 史代
出版社:双葉社
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この作品は、中学の国語の授業で取り上げた事例を紹介した講座で知りました。

そこではかなりのネタバレをしていましたが、作品で語られる無言のメッセージや苦しさに惹かれて、講座帰りに早速ポチって電車内で読んだんです。そして嗚咽。

心臓をわしづかみにされたような衝撃でした。

 

この先はネタバレを含みますが、そんなことでは名作の色はあせないと信じて書きます。

 

舞台は、終戦から10年後の広島。

主人公の皆実は、ぼろ屋で母と二人暮らしをしています。

会社の同僚である打越さんは、皆実のことが好きなようで、わざわざ家にまで皆実に会いに来るほど。

しかし彼が「平野さん(皆実)て ええヨメさんになるな」と何気なくアプローチすると、皆実は猛烈に怒るんです。石を投げつけるほどだからすごい。

 

その後、銭湯に行った彼女は火傷を負った人たちを見ながら思うんです。

 

 ぜんたい この街の人は 不自然だ

 誰もあの事を言わない

 いまだにわけがわからないのだ

 わかっているのは「死ねばいい」と

 誰かに思われたということ

 思われたのに生き延びているということ

 

この作品は、戦争で生き延びた人たちの「サバイバーズ・ギルト」をテーマにしています。

皆実は八月六日に「何人見殺しにしたかわからない」と言います。 そこで彼女が回想する経験は生々しい。

塀の下の級友を見捨て、死体を平気でまたぐようになり、綺麗な死体を選んでその下駄を盗み、父も妹も見つからず、異臭で鼻が変になりそうだという。

読むだけで息が詰まります。

 

こうして”あさましく”生き残ったことへ、痛烈な罪悪感があるんです。だから、打越さんからの好意を素直に受け取れない。

そうしてようやく、彼に心の内を話して、そして彼もそれを受け入れてくれます。

「ああ、よかった」と皆実は安心します。 主人公がソウルメイトを見つけたのなら、普通はそのままハッピーエンドになるところでしょう。

ところが直後に皆実は寝込み、あっという間に枕が上がらなくなってしまう。

すぐに目が見えなくなり、紙面はコマの枠線と文字だけになります。

そしてこう思うんです。

 

 嬉しい?

 十年経ったけど

 原爆を落とした人はわたしを見て

 「やった! またひとり殺せた」

 とちゃんと思うてくれとる?

 

十年も経ってから突然原爆症を発症することがあると、今まで知りませんでした。

大叔母のだんな様は市内で被爆したそうですが、ガンで亡くなっています。

知りもしない誰かに「死んでもいい」と思われることは、どれほど理不尽でしょうか。

それなのに、その対象となった人たちは生きていることに罪悪感を持ってしまう。

 

大叔母は「戦争は絶対ダメよ」と言っています。

それでも、彼女はその理由を上手に伝え切れていないように思うんです。

 

『夕凪の街』は戦争を知らない私たちに、戦争は、一度起こったら、戦いが終わったあともずっと苦しみが続くことを教えてくれます。

だから、絶対に始めてはいけないのだと。

 

私は第二次大戦には並々ならぬ興味があり、実録ものから創作、実体験を面白おかしくまとめたコラムまで、かなりの本を読んだと自負しています。

特攻隊員の遺書も、直筆の遺書もたくさん読みました。

それでも、『夕凪の街』はそれらの本に負けず、それ以上にも心を打ちます。

 

ひとコマ、ひとつのセリフ、どれを取っても無駄がなく、マンガというメディアの伝え方を存分に知り尽くした表現をしています。

 

「マンガは短編こそ作者の力量がわかる」と言いますが、間違いなく『夕凪の街』は名作であり、作者のこうの史代さんは大作家だと思うのです。

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