TOP > マンガ新聞レビュー部 > 人を好きになるのが少し怖くなる一作『あげくの果ての...

高校時代から大好きな先輩。社会人になって相手が結婚してもあきらめられなくてーー米代恭さんの『あげくの果てのカノン』は、近未来の東京を舞台にするSFマンガであると同時に、主人公の高月かのんが、どんな変化があっても1人の人を思い続けるという恋愛マンガでもあります。
 
恋愛に鈍い私はいつも恋愛要素を含むのある作品を読むと「ああ自分も恋をしたい」と思うのですが、今回は人を好きになることのハードルの高さと怖さを感じました。読むのに覚悟が求められます。
 
あげくの果てのカノン 1 (ビッグコミックス)
著者:米代 恭
出版社:小学館
販売日:2016-06-10
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舞台は地球外生命体の侵略を受けた近未来の東京。人間が住むところは地上と地下に別れ、侵略の影響で地上は常に雨が降っています。
 
主人公の高月かのんは地上のパティスリーで働く少女。そこで高校時代に好きだった境先輩と再会します。
境先輩はSLC(異星生物対策委員会)という、異星人を破壊する特殊部隊のリーダーで、同じチームの結婚相手と地下に住んでいます。たまに地上に来るときに、かのんが働くパティスリーを訪れるのです。
 
不倫が悪いと思いつつも、高校時代からのあこがれを忘れられないかのん。境先輩の結婚相手に牽制されながらも、
先輩と過ごす時間を増やしていきます。帯には「不倫SF」とも描かれました。
 
しかも、かのんの愛情の示し方はすごい。
先輩との会話を録音し、先輩が使ったナプキンなどはもらってくるーー行為だけをみると完全にストーカーなのです。
事実、作品中でかのんの語りは友人らに引かれます。
 
 
ストーカー的なかのんの行動や、徐々に変わっていく境先輩を見せられながらも、読み続けられるのは米代さんの力だと思います。
かのんや境先輩の表情や行動、構図、物語の展開、心情描写。そして地球外生命体の侵略で命の危険にさらされているという状況--これらが全て組み合わさって、「こんな反応されたら、好きで居続けるしかない」と思わされます。
 
 
こうしたかのんの行動を「情愛の強さ」と思ってしまうのは、2次元の存在にいわゆる「ガチ恋」をしている人がインターネットを通じて可視化されたからだと思います。いわゆるキャラクターのオタクの世界では、相手に関する情報収集やグッズを集めて相手への愛情の強さを競います。
思いが強ければ強いほど、対象に関する情報を手に入れ、またグッズも複数入手することになります。かのんの行動を見て、そんな2次元のキャラ好きとの共通点を感じました。
 
 
7月下旬に青山ブックセンター本店で開かれたトークショーで、米代さんは、「かのんは境先輩に恋する以外は生きる気が起きない。先輩を中毒的に好きでいてしまう」と説明されていました。かのんの示す情愛には、「ここまで人を好きになれるのか」と感嘆します。
 
ただ、2次元のキャラクターとの違いは、好きになる相手の「変化」です。
  
作中で境先輩は、異星生物との戦いで傷つくとその修復の過程で中身や嗜好が変わっていきます。
明確には描かれていませんがどうやら感情すらも変化するようです。
 
 
マンガ新聞のレビューで、園田奈々さんは、このかのんの態度を、3次元のアイドルに対する態度と比較されていました。曰く、「変わる可能性のある相手を好きになるのは難しい」。
 

私はこの、「個人の変化」は、境先輩のようにSF的な設定による、傷からの修復でなくても、現実社会における経験や加齢による嗜好の変化もあてはまると思います。

とすると現実世界で、恋人やふうふになって、長い間他人への愛情を維持していくのは奇跡的だなと思います。
 
 
こんな「一途」な思いを持っているかのんでも、それが不倫となれば周りから非難されます。
作中では義理の弟や母親から批判されます。
  
もちろん愛情関係の構築は、周りの人に認められるためにするわけではありません。
 
でも、少なくとも周りが受け入れる「恋愛関係」になるには、相手の好きを察知したうえで、きちんとした距離をとりつつも、
双方からの思いがほぼ等間隔である状態がある程度続かないといけないのかもしれません。
 
反対に、本当に好きになればかのんのように、束縛するわけではないけれども、
「相手のことを知りたい」と思うあまり、関連するすべての情報を集めたいという誘惑に駆られるのかもしれません。
 
とすると、人をきちんと好きになるって、すごく難しい。
 
 
ドラマ「おっさんずラブ」を見て「恋愛っていいな」と思っていたところなのですが、『あげくの果てのカノン』を読んで、改めて恋愛の難しさを実感しました。
 
ちょうど5巻で完結しましたが、ぜひ覚悟を決めてお楽しみください。
 
 

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