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超絶草食男子と繰り広げるプラトニック恋愛と漢方と初恋とその他いろいろ『三代目薬屋久兵衛』

よく「付き合うか付き合わないかくらいの頃が一番楽しい」とか言います。ムダにヤキモチも焼くし、相手の気持ちはハッキリわからないし、エッチなことはなにもしてないけど、でもなんとなく流れに乗ってるのはわかるしで、もう大波小波の小舟に乗ってる感じ。ちょっとのことで大喜びして、なんでもないことで落ち込んだりして。いやー、恋って最高のアンチエイジングですよ。

 

でもいったん男女の関係になってしまうと、クローズアップされるのは男女の考え方の違いなんですよね。グダグダ余計な心理や条件なしにヤりたい男と、心の交流と保証を求める女と。相手に対する期待もぐんと上がるので、付き合った途端に喧嘩まみれになったりしますよね。

 

睦月影郎さんによると、男はエロを求めるときに、なるべく余計な情報はいらないそうです。女性の過去とか、男性の生い立ちとかトラウマとか。生理も妊娠もない、ただひたすら肉と快感だけがある世界。……いや〜、女にはまったく理解ができません。

 

女はぜったいリアルから目を背けられないので、女向けのエロは欲情するに至るドラマに重点が置かれます。男性のトラウマを掘り下げ、女の葛藤を取り上げ、2人がどう結ばれるかとか描いたりします。結果的に、女が描く、または女のための性に関わる話はちょっぴり重たくなることも多いんです。

 

なので、単純に「エロのない作品」は、とても軽い気持ちで読めます。そのひとつが『三代目薬屋久兵衛』です。

  

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著者:ねむようこ
出版社:祥伝社
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マンガの最適な長さってこれくらいだと思うんですよね。これ以上長くなると読みはじめるのに覚悟がいります。

 

そしてエロがないってことは、男性が欲情しないってこと。もうこれだけで女は安心して作品を読むことができます。男が欲情すると、リアルを彷彿とさせられたり、さりげなく欲情させるために大仰な設定が追加されたり、話が複雑になることが多いんです。でもエロなしなら読み手が感じるのは「付き合うか付き合わないか」のラインを楽しむキュンキュン感ですよ。こりゃあいい!

 

ところで、昨今の少女マンガは、タイトルを読んだだけで中身がなんとなく想像できるのが多いですね。「ナントカくんはどうたら」とか、「ナントカはどうとかします」とか。少女マンガに恋愛要素は不可欠と言われてますが、それがメインテーマになっちゃうと、大した展開がなくてあんまり面白くないです。かっこいいナントカくんが振り向いて主人公と上手く行くまでの話で、ラストまで読まずともおなかいっぱい、みたいな。

 

だけど『三代目薬屋久兵衛』って、とりあえずなんのことかわからないです。久兵衛って誰のことかピンとこないし。ヒーローにしてはなんかじじ臭い名前だし。

 

そう、「面白い作品」って、どれだけの要素があるかだと思うんです。マンガって、連載が長引くと、あとから設定が追加されたりして、話が横道にそれたり、主人公がやたら新しい技を身につけて強くなったりします。そうじゃなくて、「これとこれとこれが組み合わさってうねりのようなものになって、ひとつの作品を作り上げる」のが、良作の条件だと思うんです。

 

『三代目薬屋久兵衛』は、森の魔女、漢方のちょっとした雑学、初恋の相手アキト、超絶人見知りの男子・叶(かなえ)くん、女子たちの恋愛像と、お弁当箱にギュッと詰め込んだお総菜みたいに盛りだくさんです。

 

「森の魔女って誰だ」だけでも作品になりそうだし、ひたすら漢方の雑学を詰め込むマンガとかでも成り立ちそうです。だけど惜しげもなく大きなテーマをギュウギュウ入れ込んで、ユルーくほんわかしたお話に仕立ててあるところが、作品の魅力です。

 

それに、たいていの少女マンガのヒーローって、やたら積極的で、女子がなんにもしなくてもせっせとアピールしてきてくれるんですよね。和久井は少女漫画の解説なんかの仕事をやってるので、よく「少女マンガに学ぶモテ技術を解説してください」とか言われるんですが、該当する作品を探すのにものすごく苦労します。だってたいていの主人公はなんにもしてないですから。

 

しかしこの作品に出てくる叶くんは、極度の人見知りで草食です。めちゃくちゃ主人公の三久は、彼との関係を進めるためにけっこうがんばってます。そうすると、ちょっと上手く行ったときには読んでるこっちも釣られてキュンキュンしちゃうんですよ。ああ、やっぱり萌えにエロはいらん……。 話を読み進めていても、どういう展開になるのかぜんぜん想像つきませんでした。だけど不安にもならずに安心して読める温かさがある。少女マンガを読み飽きた人、なんとなく疲れている人にもオススメです。

 

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