TOP > マンガ新聞レビュー部 > 「言葉にする」は歩み寄ること。『亜人ちゃんは語りた...

最近は毎日のように、各メディアでパワハラ・セクハラといった言葉を目にします。

視聴者の関心を引きやすいトピックであるということに加えて、#MeToo のムーブメントもあり、被害を受けた方が声を上げやすくなっているためでしょう。

 

そのおかげと言ってはなんですが、最近は「異性」「部下」といった、大雑把なタグ付けで他人を理解した気になってはいけないということが、浸透しつつあるのではないかと思います。

 

ハラスメント行為は、その言動をしても(少なくとも見た目上は)問題なかった「異性」や「部下」はあくまで、自分が今まで接してきたか想像している「誰か」であって、「目の前にいる人」とは違うということを忘れた人によるものだと思います。

 

今まで傷つけられてきてしまった人たちの喪失は、取り返しのつかないものでしょう。でも今後は「自分の言動がどういう受け取られ方をするか」というコミュニケーションの基礎となる想像力を、多くの人が目の前にいる人ごとに発揮できるようになればいいと思います。

 

そして今回紹介する『亜人ちゃんは語りたい』は、そんな「歩み寄るコミュニケーション」について優しく楽しく示唆を与えてくれるマンガです。

 

亜人ちゃんは語りたい(1) (ヤンマガKCスペシャル)
著者:ペトス
出版社:講談社
販売日:2015-03-06
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摩訶不思議な「亜人ちゃん」たちの性質を科学する

『亜人ちゃんは語りたい』の舞台は、我々と同じ普通の人と、「亜人」と呼ばれる特別な性質をもつ人がいる世界(詳しい人たちは、亜人のことを“デミ”と呼ぶそうです)。

 

本作はそんな世界の現代日本の高校に集まったバンパイア、デュラハン、サキュバス、雪女といった亜人たちと、亜人の研究をしている生物教師、高橋鉄男の日常を描いたコメディです。

 

このマンガがユニークなのは、「亜人たちがいる」という点を除いて、設定に現実と違う”ウソ”がないところ。そして、一見超常的に思える亜人たちの性質について、理屈っぽく理解を試みようとしている点です。

 

たとえば頭と胴が離れている亜人、デュラハン(アイルランドに伝わる妖精)の女の子の町京子さんのケース。

 

亜人ちゃんは語りたい(2) (ヤンマガKCスペシャル)
著者:ペトス
出版社:講談社
販売日:2015-09-04
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見た目(上記コミックス表紙参照)はインパクト大ですが、ファンタジーな作品なら「そういうキャラなんだ」という大雑把なタグ付けで存在を了解されてしまうところでしょう。

 

しかし『亜人ちゃんは語りたい』では、”なぜ亜人たちには、こうした特殊な形態や性質が成立するのか?”という疑問に、科学的なアプローチを試みます。頭と胴体が分離していて、かつ生命活動を維持しているってどういうことだ!? というわけです。

 

そして高橋先生の友達の物理学者が、町さんへヒアリングして出た結論は、”頭と胴はワームホール(亜空間)でつながっている”というもの。目に見えない首部分は別の空間に存在しており、食べたものなどはそこを経由して体内に至るというのです。

 

もちろん、亜空間が存在する理由までは解明できないのですが、ただ「デュラハンだから」とスルーするのではなく、理屈を探求し、現象を言語化しようとしています。

 

理由を言葉にすれば歩み寄れる

作中でのこうしたアプローチ(主に高橋先生が実施)は、時には「実験」にも見えるようなときもありますが、亜人ちゃんたち自身はそれが自分たちの生活をよりよくするためだと理解しています。先生と生徒の信頼の上に成立しているのです。

 

これと似たようなことを、僕らができるといい感じなんじゃないでしょうか。

 

僕ら同士には、亜人ちゃんたちのように明確な「違い」はありません。けれど好きなことや嫌いなこと、得意なこと苦手なこと。それらは僕らが固有に持っている性質で、違いです。

 

そうした情報をタグのように名詞化してプロフィールに書くことはよくあります。でも普段、その理屈まで深堀りして言語化することはあまりないのではないでしょうか。

 

だけどそこにこそ個性が出るし、仲良くなるためのヒントがあったりするもの。そして自分のことを理解してもらえたという感覚は気持ちいいものです。誰だって、きっと語りたいのです。

 

最近流行りのコミュニティは、そんな気持ちをくみ取ってくれる安全地帯として機能しているのだと思います。たとえば僕はサウナサロンというコミュニティに所属していて、たくさんのサウナ好きの方々でにぎわっています。

 

一口に「サウナ好き」といっても、その理由は人それぞれ。サウナ室と水風呂を交互することで生じる快感が好きな方だったり、電子機器が持ち込めないオフライン空間で己の身体と向き合う時間が大事だからだったり、様々です。

 

オフ会で盛り上がるのは、そんなそれぞれのこだわりを、それぞれの言葉で語り合う瞬間です。お互いにお互いの好みの理由を言葉にすることで、歩み寄って距離が縮まるからでしょう。「みんなサウナ好き」という信頼あるセーフティゾーン内で開示される「違い」は、異物感ではなく、優しさをもって歓迎される個性なのです。

 

『亜人ちゃんは語りたい』は、そんな優しさをもったキャラ達から、どんなふうに「違い」にアプローチしていけばいいのか、を教えてもらうことができる作品です。ジャンルはコメディですが、僕はダイバーシティ教育で使ってもいいくらい、深い学びがあるマンガだと思います。

亜人ちゃんは語りたい(1) (ヤンマガKCスペシャル)
著者:ペトス
出版社:講談社
販売日:2015-03-06
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亜人ちゃんは語りたい(6) (ヤンマガKCスペシャル)
著者:ペトス
出版社:講談社
販売日:2018-05-18
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