TOP > マンガ新聞レビュー部 > “偶像崇拝”のなれの果て『あげくの果てのカノン』

某年7月7日、某国民的アイドルの熱愛騒動。朝Twitterを開いて、事の顛末を知った。

 

交際相手の女子アナの有料ブログを遡り検証し騒ぐファンと、そのファンの並々ならぬ情熱(?)をネタにする人間と、そして必ずこういう場で現れる「そもそも自分が結婚できるとか思っていること自体がワロス」とはやしたてる人間。とりあえず、私の周囲は大騒ぎだった。

 

こういうとき必ずといっていいほど、「本当に好きなら、相手の幸せを祈れよ」というひとが現れる。

 

確かに正論ではあるけれど、じゃあ、そもそも“アイドル”ってなんなんだろうか。そんな苦行を強いてくる存在を、どういう形で愛すべきだろうか。

 

そんな翌日、Kindleに予約をしていた『あげくの果てのカノン』がダウンロードされた。

 

もう寝ようと思っていたが、ずっと楽しみにしていた漫画だったので、つい1ページ開いてしまう。気がつけば、読み終わっていた。想像をはるかに超えて面白い作品だったのだ。

 

そして、私はこの作品に、アイドルに対する想いとリスクを見た。

 

あげくの果てのカノン 1 (ビッグコミックス)
著者:米代 恭
出版社:小学館
販売日:2016-06-10
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東京が廃墟化した近未来

『あげくの果てのカノン』は、SFである。ある日エイリアンが襲撃してきて国会議事堂は全滅、以来都心部は雨が降り止まない。主人公のかのんは地上にあるパティスリーでアルバイトをしており、彼女が想いを寄せる境先輩は、SLC(異星生物対策委員会)で異星人を破壊する特殊部隊のリーダーとして地下で暮らしている。

(C)米代恭/小学館

設定で少し敬遠してしまうだろうか。私はそういうタイプだ。しかし、この作品の凄さは、設定をも彼女の“恋愛観”を浮き彫りにする一要因となっているところだ。(それについては後述)

 

そもそもこの作品は、エイリアンが出てくるにも関わらずどこまでもリアルで、今生きている世界の延長線上のような独特の静けさがある。

 

“恋はひとを盲目にする”を具現化した“かのん”

“恋はひとを盲目にする”。

 

定職につかず、日がなパチスロ、女にだらしなく、毎日のように彼女に金をたかる……そんなダメ男に対しても、「でも、あの人にもいいところがあるのよ」なんて言えちゃう女性がいる。

 

そもそも完璧な人間なんて存在しないわけだから、“恋”というのは、そういう意味では現実を生きぬく上で必要なファクターなのかもしれない。

 

そんな恋の現象に手足を生やしたかのような存在が、この作品の主人公“高月かのん”だ。

 

かのんは既に境先輩に振られていた。しかし先輩への想いはやまない。先輩の写真や元カノの写真をファイリングし、喋るときは声をレコーダーでこっそりと録音し、日々日記を書きためていく。

(C)米代恭 / 小学館

現実にいたら完全に犯罪者予備軍のストーカーなのだが、境先輩はそんなかのんを「可愛い」と言う。振った女の子に対して、意味ありげな言葉を投げかける罪な男(しかも既婚者)なのだ。

 

しかし、かのんもかのんで、その猪突猛進っぷりや挙動不審っぷりには、正直同情の余地がない。彼女は憧れの先輩を好きで好きで仕方ないが、それは、あくまで彼女の心の中に存在する彼でしかないのだ。

(C)米代恭/小学館

 

偶像は、いつまでも偶像であってほしいんだよ

この作品の凄いところは、かのんが恋する先輩が“少しずつ変化していく”という設定にある。

 

彼は、異星人と戦い接していく中で、趣味嗜好が変わっていく。

 

彼女の恋していた先輩は、現在進行形で、彼女の思わぬ方向に舵を切っていくのだ。

(C)米代恭/小学館
(C)米代恭/小学館

以前はお肉を食べられなかった先輩が、肉を好んで食べるようになっていた。かのんは、無意識のうちにハンバーガーを頬張ろうとする先輩の手を握っていた。

 

変化していく先輩に、心の片隅ではずっと違和感を感じていた。その感情が一度に吹き出した瞬間だ。

 

フィッシュバーガーしか食べられない先輩は、もはや現実には存在していなかった。

 

これは単なるメンヘラ女の物語ではない

変わらないものなんてなければ、自分の思い通りになるものもない。そんな厳しくて理不尽なことばかり起こる現実で、夢を見させてくれる存在があるからこそ、生きていける人間もいる。

 

思い返せば、私だって、そういう“変わらない存在”を一心に愛することで癒され続けてきたところがあった。私が小学生の頃に恋したキャラクターは、未だに格好良くて強くて綺麗な存在のままだ。

 

その点、“なまもの”にそれを求めるのは、実は大変リスキーなんだなとも思う。同じ生きる人間だからこそ、リアルで、強烈な夢を見せてくれるけど、その分夢が崩壊したときのダメージは大きい。

 

そして、やっぱり同じ“常に変わりゆく”人間に対して、「いつまでも偶像であってくれ」というのは酷なのだ。

 

「お前が愛しているのは偶像なのだから、さっさと夢から覚めて現実を愛せ」と言うのと、同じくらいに。

 

かのんは、目の前にいる先輩を偶像崇拝している。しかし、先輩はそんなかのんの感情に気付きながらも、変化していくことをやめない(やめられない)。

 

かのんの想いのあげくの果ては?

 

1巻、最後のページに声をあげる。

 

誰しもが抱える弱さをこれでもかとえぐるストーリー。

 

“変わらない”ものを追い求めがちな私たちは、今すぐこの漫画を読むべきなのだ。

 

(C)米代恭/小学館

 

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