TOP > マンガ新聞レビュー部 > 結婚してもしなくても、どっち行っても地獄行きってホ...

Aさんの場合。
著者:やまもとりえ
出版社:祥伝社
販売日:2017-03-03
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自分の生きられなかった人生が目につく

「そうよ。きっとみんな焦ってるし、人生の半分はブルーだよ。既婚でも、独身でも、子供がいてもいなくても」

 

もう10年以上前に読んだ、奥田英朗の名作『ガール』の台詞が忘れられずにいる。

 

結婚し、子供も産んだ。幾通りもの生き方のなかから、既婚子持ちで働く人生を選んだ。けれど一方で、独身の同僚が仕事に打ち込む様子や、子供を持たない夫婦の美しい佇まいを、頻繁に、羨ましいと思ってしまう。

 

思えば私は、結婚するのも、子供を産むのも怖かった。

結婚したら、夫以外の人とは恋愛ができないし、子供を産んだら、自分だけの時間を過ごすことはほぼなくなる。

 

人生のいくつかのタイミング、選択をするたびに、生きられなかった人生は増えていく。これでいいのか、自分の選んだ道への不安は、ほんの少しだけ、ずっとある。

その泥沼のような感情を、優しく受け止めてくれるのが本書である。

結婚してもしなくても地獄…?

30代独身、仕事のできる会社員のAさん。対して、30代既婚、Aさんの同僚で娘が一人いるBさん。対照的な2人を軸に物語は進んでいく。

 

たとえば、Aさんは「子供いる人は早く帰れていいわね」と言い、Bさんは「私だってもう少し会社にいたかったわよ」「子供さえいなけりゃ」と思っている。そしてAさんは口には出さないけど「結婚している人がそんなにエライわけ?」と思っている。Bさんは当然、Aさんのことが苦手だ。

 

さらに、AさんはBさんと比べられて、上司から「君は結婚しないの?」と言われることが多々あるらしい。そのたび「なんで遅くまで働いてる私がイヤミ言われなきゃなんないの」とも思う。一方でそんなAさんのことをBさんは「時間もお金もありあまっているんだろうな…」という風にみている。 

 

それぞれの言い分は、どっちも筋が通っている。だからこそ、他人にはどうしようもないのが辛いところだ。だから正反対の二人の距離はいっこうに縮まらない。さらには、同じ職場で働くバイト主婦や若者社員の言葉が、二人にさらに追い打ちをかける。

 

ところが、そんな二人の関係が、終盤、思わぬことがきっかけで、大きく変化する。

言葉を交わすことはほとんどなかったため、まったく気づけなかったけれど、実は二人にはしっかり共通点があったのだ。

 

SNSが嫌いなこと。

そして、お互いをほんの少しずつ、羨ましいと思っていること。

 

AさんもBさんもまた、自分のしなかった選択を羨ましいと思ってしまう、同じ女性だったのだ。

 

みんなにみんなの事情があって、そしてみんなが少しずつ、誰かのことが羨ましい。たくさんの局面を舞台に、どちらの事情をも丁寧に描くことで、本書はそんな不細工な感情を、仕方のないことだと許してくれ、そして最後には、希望まで持たせてくれる。

 

コラムニストのジェーン・スーさんが本書に寄せた言葉が、私が言葉にできるどんな賛辞より、秀逸に私の気持ちを語ってくださっているので、敢えて引用したいと思います。

 

「混線したそれぞれの事情をこれほど丁寧に、誰のことも傷付けず掬い取ってくれてありがとうございます。」

 

ガール (講談社文庫)
著者:奥田英朗
出版社:講談社
販売日:2012-09-28
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