TOP > マンガ新聞レビュー部 > 男女のギャップを埋める『僕と君の大切な話』

もうすぐホワイトデー。みなさん、2月のバレンタインデーには好きな人やお世話になった人と、チョコレートなどをやりとりされましたでしょうか。

渡す前、「どんな反応なのだろう」「受け取ってくれるのか」とドキドキしたかもしれません。また、受け取られた方は「なぜ自分がもらえたのだろう」と思ったり、逆にもらえなかった人は人と比べて「なぜ自分はもらえなかったのか」と落ち込んだかもしれません。それは、ひとえに相手がなにを考えているかわからないから。特に異性間ではその傾向が顕著です。

人同士の付き合いで、相手が何を考えているのわからないーーろびこ先生の『僕と君の大切な話』はコメディータッチのやりとりで、そんなもやもやを埋めてくれます。

男女の間の恋愛は少女マンガの定番のテーマ。

少女マンガの恋愛物語は、ある空間で男女が出会い、相互理解を深め、ときにはすれ違いながら心を通じ合わせ恋人同士になっていくのが基本です。少年マンガや青年マンガを読む人からすると「なぜ恋愛しか扱わないんだ?」と疑問に思うかもしれません。

 

しかし、少女マンガの恋愛物語が扱うのは、恋愛がコミュニケーションの究極のスタイルのひとつだからではないでしょうか。そもそも人は、育った環境や受けた教育の違いから考え方の違いがあり、これが意志疎通の障害になります。男女の恋愛であれば、そこにさらに性別の違いという壁が入り込むことになる。

男女の恋愛は、こうした障害や壁を乗り越えなければならないのです。(もちろん同性の間の恋愛にも壁があります)壁を乗り越えて1人の相手と心を通じ合わせる少女マンガは、人とつながりたいという読者の欲求を満たすのです。

 

こうした2人の関係を取り上げる恋愛マンガで物語の刺激になるのは2人のすれ違いです。相手は自分のことをどう思っているのだろうーーこうしたもやもやした思いを抱えるキャラクターの揺れ動く姿や迷いが物語にアクセントを加えます。

それもこれも、人同士、特に男女の間では相手が考えていることがわからないからです。

 

多くの少女マンガでは、「男女はお互い何を考えているのか」はモノローグや同性間の会話で表され、肝心の2人の間ではなかなか共有されません。

そんななか、お互いの考えを男女間のコミュニケーションとして描いたのが、ろびこ先生の『僕と君の大切な話』。キャラクターの会話を通じて、「相手のことがわからない」というギャップを埋めてくれます。

 

僕と君の大切な話(1) (KC デザート)
著者:ろびこ
出版社:講談社
販売日:2016-03-11
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物語は、東くんと、彼に片思いする相沢のぞみさんが中心。片思いをしている相沢さんが、会話を通じて東くんとの距離を少しずつ縮め、読者をどきどきさせます。

 

こう説明すると、一般的な男女が出会う少女マンガのように見えるかもしれません。しかし、『僕と君の大切な話』が単なる理想の恋愛物語ではなく、男女の相互理解のギャップを埋めるために役立つのは、相沢さんと東くんの会話の内容の秀逸さです。

たとえば第1話。相沢さんがほぼ初めて東くんに声をかけるシーン。

 

僕と君の大切な話_01

僕と君の大切な話_02

 

「どうして男は・・・戦いが好きなの」

恋人の有無や好きな物を聞くでもない。まして名前を名乗ったり告白したりするわけでもない。

 

確かにこのテーマは、女子からするとすごく気になります。でも、気になっている異性に初めてかける言葉にふさわしいかというと疑問です。

でも東くんは逃げません。きちんと答えてくれます。

 

「・・・それを言ったら少女漫画だって似たようなものじゃないか」

「古今東西男女の色恋沙汰だ」

 

会話としては成り立っていそう。でも、いまいち気になる相手との関係をすぐに進展させるものではない「3歩進んで1歩下がる」感じ。登場するキャラクターの間の会話は、少しコメディーチックでもあります。

 

そして相沢さんは第1話で東くんに告白します。「ある程度関係を築いてから告白に至る」「少なくとも読者に登場人物同士の関係を見せてから告白に持って行く」という少女マンガのセオリーを崩すかのよう。しかし東くんの返事は1歩どころか5歩ぐらい下がってしまいました。

東くんの答えは、

 

 「自分から言いよるのは女として愚作の極みだ」

 

というもの。

男性の狩猟本能からすると正しいかもしれない。でも「照れる」「うれしさを表現する」「ドキッとする」といった、およそ少女マンガの告白のシーンのセオリーからは少し外れています。

このあとも東くんと相沢さんの会話は、これまでの少女マンガの高校生の男女のものとは少しずれたものに。このセオリーとのずれやじれったさが、『僕と君の大切な話』を少女マンガならしめているともいえます。

おそらく現実世界では、このように異性から突拍子もない質問がきたり、「なぜわかってくれないんだ」と冷たい目をしたりすると、溝が広がることになるでしょう。しかし『僕と君の大切な話』というマンガの世界では、2人は根気よく自分の考えを伝え、同時に相手の考えを言葉を使って引き出そうとします。

 

現実世界ではなかなか説明しないことも、東くんと相沢さんおよび彼らの周りのユニークなキャラクターたちは、「なぜ自分がそういう行動をするのか」を言葉にし、かつモノローグも使いながら読者に見せてくれます。

それぞれの「男の子とは/女の子とは」の説明は、おもわず「あるある」とうなづいてしまうもの。その会話のなかから読者は、「男の子/女の子はなにを考えているのか」を少しずつ見いだすことができるのです。

 

ろびこ先生の前作『となりの怪物くん』では、コミュニケーションが苦手な男女の恋愛模様が描かれました。

こちらは2018年ゴールデンウィークに実写映画の公開が決まっています。『となりの怪物くん』では、もやもやしてすれ違いそうになったとき、真っ向勝負で対話を持ちかけるキャラクターの姿が印象的でした。

 

『僕と君の大切な話』でも、台詞とモノローグを全面活用して、キャラたちは自分の思いを言葉にして相手にぶつけています。この作品を読めば、異星人のように思えていた相手でも、少しは考えが見えてくるかもしれません。

 

僕と君の大切な話_03

 

なお、言語の重要性を知りたい人、思考面での男性性/女性性に興味を持った人には、いい本がたくさんでています。 ユヴァル・ノア・ハラリ 氏『サピエンス全史』や進化心理学の研究書などはいかがでしょうか。

 

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