TOP > マンガ新聞レビュー部 > 心のとびらをあける鍵『オナニーマスター黒沢』

”セックスはコミュニケーション”だといわれるが、

それに対して、オナニーはコミュニケーションになりうるのだろうか。
俺たちがオナニーをするとき、一体どんな状態に陥っているのだろうか。

 

そもそも、オナニーって、一体何なんだ

 

オナニーマスター黒沢(1)
著者:伊瀬カツラ
出版社:ナンバーナイン
販売日:2018-07-13
  • Amazon

 

その問いに迫る前に、まずはスタートラインを整えたい。

20‐69歳の男女のうち、「これまでに自分の性器を手や器具で刺激して快感を求める、マスターベーション(自慰)をしたことがあるか」という問いに対して、男性9割、女性は6割がYESと答えている。

(2013日本家族計画協会 有効回答数6961)

これを読んでいる多くの人々にとっては、おそらく睡眠と食事の次に長く続けている行為であると断言できる。
(一般論のみで語るのはフェアじゃない。かくいう自分も13歳で始めてからというもの、幾度となくお世話になっている。俺たちは誰にも言えなかった秘密をたった今、共有している仲間である)

 

俺たちが今、直面しているのは、性別問わずかなり普遍的な問いなのである。
単なる性欲を消化するだけの行為だ、という人もいるかもしれない。
しかしそれはあまりに早計である。笑止千万。
結論もオーガズムもゆっくりと迎えるべきだ。

 

何故ならば俺たちはセックス中にもそれをすることがあるし、日課として行うことも誰かの温もりが欲しくて行うときもある。
実に用途は多種多様。ダイバーシティとはこのことである。

そして繰り返すようだが、やはり俺たちは”それ”が一体何なのかということについて、未だに定義できていない。
今回ご紹介するマンガ『オナニーマスター黒沢』はそんな問いに迫りうる、珠玉の名作である。

 

 

主人公の黒沢は、自身の通っている中学校で誰にも言えないある日課を続けている。
それは、女子トイレでオナニーをすること。(この段階で女性読者は激減したかと思うが、構わず先に進む)

 

なかなかのチャレンジャーである。中学性にしてハイリスクハイリターンを地で行っている。
学校でしたことはあっても、異性のトイレでこれができる人間は限られている。この時点で黒沢に惚れそうになる。

 

そんな勇者の黒沢にも転機が訪れる。

 

同じクラスの女子生徒に、日課がバレるのである。

 

当然の流れである。なぜならばここは女子トイレである。
黒沢は焦る。中学性といえど、立派な社会的な死を目の前にする。
しかしながら、女子生徒は思いもよらない行動を取る。


いじめられっ子である彼女は、自身をいじめる人間へ”精なる性裁”をもちかけ、復讐を試みるのだ。
のっぴきならない状況の中、意を決した黒沢は女子生徒に加担し泥沼にはまっていくー。

 

オナニーマスター黒沢(2)
著者:伊瀬カツラ
出版社:ナンバーナイン
販売日:2018-07-13
  • Amazon

 

俺たちにも、どうしようもない感情に耐えきなくなったことがあるはずだ。
受験に落ちたり、好きな人が友達と付き合ったり。親と折り合いがつかなかったり、誰かを傷つけてしまったり。

 

でも、自分が作った世界の中なら傷つかなくていい
そこでなら、自分は何にでもなれる。好きな人とも繋がれるし、誰かを傷つけても直視しなくていい。
そんな個室を、誰しもが持っている。

 

自分も、誰にも言えず蓋をしていた感情がある。
スクールカーストの中央にいた中2の頃に、(ちょうど黒沢たちと同じくらいの年齢だろうか)
それまでの友人関係よりも、カースト上位に上がることを取ったことがある。

 

ものすごい汚い感情だと思うが、当時はどうしようのない自分から目を背けた。
それ以来、自分の見える世界からスクールカーストは抜け落ち、歪な世界の中で中学校生活を送っていた。

 

 

黒沢たちも同様に、個室の中で必死にもがいている。
そこから出ないといけないとわかっているのに、どうしてもあと一歩が踏み出せず、もがいた爪で周囲を傷つけてしまう。

それでも彼は、扉をぶち破る。
怖くても傷ついても、彼は扉の外でこそ誰かとつながっていけることを知る。

 

オナニーは、”自意識と向き合うための尊い行為”なのだと思う。
言うなれば、”オナニーは自分とのコミュニケーション、オナニーは自分との対話”である。

 

オナニーの数だけ、人は強くなれる。
あの時の情けなかった自分に、黒沢は本当は見れるはずだった世界を教えてくれる。

彼らが自分の殻からどう一歩を踏み出すのか、見守ってほしい。
彼らは紛れもなく俺たちの仲間なのだから。

 

P.S.自分の世界にとことん溺れ、現実とのギャップにあがきながら外へ出て行く彼らの勇姿は、
5年の時を経て、電子書籍として現代へと舞い戻ってきたようだ。

あの頃、黒沢だった俺たちに、あいつはまた光を見せてくれる。

 

オナニーマスター黒沢(3)
著者:伊瀬カツラ
出版社:ナンバーナイン
販売日:2018-07-13
  • Amazon

この記事に類似する記事

▶マンガがお得に買えちゃう情報満載!

人気のコメント

新着コメント

過激なタイトルだけど読後感はすごく爽やか。個室から出て、世界とつながることであなたの人生は変わるかもしれないという話。朝井リョウさんより早かったスクールカーストものの傑作。

ログインして
すべての人気のコメントを見る

ご自身のTwitter、Facebookにも同時に投稿できます。

《マンガ新聞》公式レビュアーの方はログイン
 ※新規ゲストのログイン機能は準備中となります

利用開始をもって
《利用規約》《個人情報の取扱について》
同意したものとみなします。
ログインメニューに戻る
ログインメニューに戻る
パスワードを忘れた方は
《パスワード再設定》を行って下さい。
ログインメニューに戻る