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緩やかに死へと向かうヒトの世界に、アナタは何を見る? 不朽の名作『ヨコハマ買い出し紀行』

はじめに

 

こんにちは。佐川です。

唐突ですが皆さん、旅行はお好きですか?

私は根っからのインドア派なので外に出る機会はそう多くはないのですが(笑、たまにふらっと旅に出てみると、なかなか気持ちの良いものです。

 

私の場合、旅行に出かけたら「THE 観光地」よりも、なるべくその土地の普段の様子が分かるような場所をめぐります。

「THE 観光地」もそれはそれで楽しいのですが、なんだかよそ行きの顔を見せられているようで落ち着きません。せっかく普段と違う地におもむくのであれば、やはり「その土地らしい」風景が見たいもの。

 

例えばですが、人里離れた山あいの地でちょっとした村なんかを訪れると、自分とは空間的に縁もゆかりも無かった地で、同時進行的に人々が暮らし生きていることに特別な感慨を感じたりします。

人々が暮らしてきた土地には、彼ら彼女らの生きた(あるいは生きている)痕跡や記憶が刷り込まれていて、色々と感じ入るものがあります…。

 

今回紹介する『ヨコハマ買い出し紀行』は、海面上昇によってゆるやかに滅亡へと向かう地球を舞台に、人とロボットのおだやかな交流を描いています。

自分たちが生きた地が水底へと沈みゆく中で、人々はどう生き、何を思うのか…。

癒しと哀愁に満ちた今作を、さっそく紹介していきます!

 

ヨコハマ買い出し紀行 1 新装版 (アフタヌーンKC)
著者:芦奈野 ひとし
出版社:講談社
  • Amazon

 

描かれるのは、人とロボットの日常風景

設定としては割とシリアスなのですが、本編は最後までスローテンポで、神奈川近辺に住む人とロボットの日常が描かれます。

主人公は岬でカフェを営む初瀬野アルファさん。見た目はめちゃくちゃ人っぽいですが、ロボットです。同じ苗字の「オーナー」(ロボットの持ち主?)がいるようなのですが、数年前ふらっと出かけたっきり戻ってきません。なので基本的にはアルファさんが1人でカフェを切り盛りしています。

人口減とは言えど人間も少なからず暮らしており、「夕凪の時代」(≒海面上昇などの影響で文明が後退し、世の中が落ち着いてきた時代)を生きるロボットと人との交流が丁寧に描かれています。

 

 

おだやかに過ぎる時間と、確実に近づく世界の終わり

各話は基本的にのんびりとした「日常モノ」なのですが、巻数を経るにつれて確実に時間は進んでいきます。

人間の子どもであるタカヒロやマッキは成長して大人になり、人間の住むことができる地もどんどん少なくなっていきます。

そんな中、アルファやココネなどのロボットだけは見た目や機能がほとんど変わりません。

 

「ロボットと人間の生きる時間軸の違い」、アルファさんはそれを素直に受け入れ、時に涙しながら、人々の暮らしを記憶にとどめていきます。

 

『ワンピース』のDr.ヒルルクの名言で

やめておけ お前らにゃおれは殺せねェよ 人はいつ死ぬと思う・・?

心臓を銃で撃ち抜かれた時・・・違う

不治の病に侵された時・・・違う

猛毒のキノコのスープを飲んだ時・・・違う!!

・・・人に忘れられた時さ・・・!!

というものがあります。

ロボットが人間の生を語り継いでくれるのであれば、地上の人間が死に絶えるギリギリ最期まで、ヒトの歴史は続くのかな~なんて思います。たとえその時生身の人間が地球に残っていなくとも!

 

 

最後まで語られることのない数多くの伏線

ゆるゆると続く本作、話の端々に重要っぽい設定が見えかくれしていて、考察のしがいがあります。

例えば、

・人型の白いモニュメントの正体

・上空を飛び続ける謎の飛行船。そこに暮らすロボットと人間。

・ロボットの起源

・アルファのオーナーの所在

などなど…。

ネットでも考察記事なんかがあったりするので、ぜひググってみてくださいな。

 

 

おわりに

人間の生きる時間に思いを馳せてみたり、設定を考察してみたり、多様な楽しみ方ができる本作『ヨコハマ買い出し紀行』。ぜひお時間に余裕のある時に手にとって、独特の世界観に浸ってみてください。お手元にはコーヒーを忘れずに…。

 

ではまた。